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第347話

そうして、回診を済ませた山岡が、朝カンファのためにナースステーションに向かったときには、原が日下部と連れ立って、きちんとそこにやってきている姿を見つけた。 『あ、原先生…』 こっそりと、日下部に近づき、様子を探る。 『うん。さっき目を覚ましたんだけどな、なんていうか、今度は気持ちが悪いくらいに淡々としていてな…』 『え…』 『昨日は取り乱してすみませんでした~って。仕事に出ます、って、テキパキと顔を洗って、身支度を整えて、ストックのインスタント麺を食べて…』 『へっ?』 『俺が口を挟む間もなくね。キリッとして、今そこに立ってる』 変だろう?と眉を寄せる日下部に、うっかり顔をぶつかるほどに寄せてしまいながら、山岡も首を傾げていた。 『どうしたんでしょうか…』 『分からない』 『無理しているのでなければいいんですけど…』 『うん。まぁなんか、違う方向にぶっ壊れたという感じなのかもしれない』 里見の状態を心配し過ぎて心が限界を振り切って、一種の防衛本能から、割り切る方向に進んでしまったのだろうか。 ひとまず里見の件を頭からも心からも切り離してしまい、完全な仕事モードになることで、荒れてしまう感情を抑え込んだとか。 『それって、ギリギリ糸1本で正気を保っているような状態なんじゃ…』 『かもしれない。一瞬でも気を抜けば、気が狂う』 『怖い…。怖すぎます、日下部先生』 『うん。分かってる。だけど、だからこそ、どうにも突つけない』 『ですよね…』 『とりあえず、なるべく目を離さずに見張っておくしかない』 俺が見ておくよ、と囁く日下部に、山岡がコクリと頷いたところで、不意に2人の間に、スッとファイルが1冊差し込まれた。 「そこ、朝からイチャつかない」 近い、近い、と突っ込みが入るナースステーション内の声で、一気に注目が日下部と山岡に集まる。 「っ…あ、いや、その、これは…」 ハッとして日下部の間近に近づけていた顔をパッと引き離し、ワタワタと慌てる山岡の真っ赤な顔をみんなが笑う。 「あぁ、ごめんね。今日も朝から、俺の彼氏の顔が可愛いな、と思って、ついうっかりね」 クスクスと笑って悪びれない日下部に、看護師たちの歓喜の悲鳴がキャーキャーと上がった。 「……」 いつもなら、まず真っ先に嫌味と皮肉な暴言と、白けた目を向けてくるはずの原が、今日は黙りこくって表情一つ変えていない。 それを不安げに、心配そうにチラ見する山岡と日下部の向かい側で、光村もまた、カンファの司会を始めようとしながら、チラリと気にするように眺めていた。

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