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第357話※

「んっ、ふ、はぁんっ…」 チュ、チュッ、チュッと上がるリップ音を耳に捉えながら、山岡は胸元を這い回る日下部の舌を感じていた。 「んっ、あぁっ、そこ駄目。やぁっ…」 かぷりと軽く、歯を立てられ、じゅぅぅっと吸われた胸の突起がゾクゾクする。 当直室。入り口のドアを蹴破る勢いでやって来て、抜かりなく掛けられた鍵の音を聞いたところで、バサリと子供のように脱がされた上半身のスクラブ。 いつの間にベッドの上におろされたのか、どうして「万歳」という日下部の言葉に素直に従ってしまったのか。 気づけば上半身裸で、ベッドの上に押し倒されて、のし掛かられていた。 「んっ、はっ、千洋。ちひろっ…」 ぬるぬると這い回る舌に、胸の飾りはすっかりツンと存在を主張している。 それに呼応するかのように、山岡の下半身にも、じわりと熱が集まっていた。 「あっ、はっ、だ、けど…千洋?」 ふにゃりと、すでに蕩けそうな目をしながらも、山岡の目が最後の理性を宿して日下部を見上げる。 不安そうに揺れるその瞳の意図を察した日下部は、にぃっと悪く口角を持ち上げた。 「ローション?ゴムの心配?なら無用」 クスッと笑った日下部が、薄く目を細めて手近な戸棚に手を伸ばす。 「え…?」 「ふふ、いつかこんなこともあろうかと、こっそり仕込んでおいたんだよね~」 前に盛り上がったとき、出来なかったから、と呟く日下部に、山岡の顔があらゆる意味で真っ赤に染まった。 「だからっ、ここは職場でっ!っていうか前って…いや、そもそもまた当直室でするの狙って…?」 「クスクス、職場でみんなが働いているときにこっそり当直室でって、ちょっとロマンだよね」 「な、んの…」 「背徳感が、刺激的じゃない?」 クスクスと笑いながら、『仕込んだ』らしいローションのボトルを取り出す日下部に、山岡がボンッと噴火した。 「なんて不良医者なんですかっ…」 「ふふ、おまえもね。同罪」 共犯だっていっただろ?と笑う日下部に、否定の言葉を持たない山岡は、ぐ、と黙り込んだ。 「ほら、腰上げて」 「っ…」 言いながらも、ぐいと下半身を持ち上げてくる日下部に、するりとスクラブパンツが脱がされていく。 ウエスト部分は総ゴムで、脱ぎ着がしやすいのが利点なのだが、この場合は難点になるのか。 あまりにあっさりと引き下ろされたパンツに身を震わせれば、さらにあっさりと下着も奪い去られてしまった。 「あっ…」 「クスクス、お説教してきた割には、勃ってるよ?」 まだ半勃ちだが、そこは確かに欲情の熱を揺らしている。 「んっ、あっ、だって、それは…」 「ふふ。やっぱり、不良医者はおまえもだ」 「あぁっ、やぁっ…」 「ねぇお医者さん?ココ、どうしてこんなことになってるの?」 病気?と笑う日下部に、山岡はふるふると首を振りながら、ポロリと目の端から涙を落とした。 「ふっ、ぇっ、やだ。やです、千洋。それやだぁっ…」 「クスクス、ちょっと意地悪が過ぎたかな?」 「うぇぇぇっ…」 この状態での医師呼びに、本気で泣き出し始めた山岡の目元を、日下部の綺麗な指先がスゥッと撫でていく。 「泰佳」 「っ…!」 「泰佳。大丈夫だよ、泣かないで。ほら、力を抜いてごらん」 こっそりと、耳元に唇を近づけて、そろりそろりと山岡の中心を愛撫し始めた日下部に、山岡の身体からへにゃりと力が抜けていった。 「いい子。上手」 「っ、ぁ…いい子って」 また子ども扱いして、と睨み上げる山岡の目は、すでに欲で潤んで何の迫力もない。 「クスクス、気持ちいいな?だけど今日はゆっくりだぞ」 直接的な刺激に完全に勃ち上がった山岡の性器を撫でながら、日下部は意地悪くチュッとキスを奪っていく。 「んっ、あぁっ、イきたい…イく」 「だぁめ」 「ひぁぁっ!な…で?」 ぐりぐりと、先っぽのいいところを指の腹で擦りながら、日下部が意地悪く根元をぎゅっと握り込んだ。 イけそうでイけない快感だけを緩く長く与えられ、山岡の足がジタバタと当直用ベッドのシーツに皺を寄せる。 「ふふ、ごめんな?」 「ち、ひろ…?」 「気持ちが高ぶっているのは分かるんだけど、おまえ、今日は徹夜でオペこなした上がりだから」 「っ、あっ…?」 「しかも10時間越えの過酷なやつ。今起きてるのも、多分限界だと思うんだよな」 「ふ、ぇ…?」 「だから1回トばしたら、そのまま寝るだろ」 ぐりぐりと、性器を刺激する手を止めないまま、日下部が意地悪く目を細めて山岡を見下ろした。 「俺が入らせてもらう前にトばれたらたまったもんじゃないから」 「ん、あぁっ!あっ、だめ、そこ、だめ…」 「俺がイくまで、今日はお預け」 コソッと意地悪く耳に囁かれた言葉に、山岡の身体がビクンッと跳ねた。 けれどぼんやりと日下部を見上げたその顔は、綺麗に微笑んで、従順にコクリと頷きを返す。 「っ!おまえは…」 「んっ、分かって、いますよ、分かって…っんぁっ」 「くそ」 「千洋が優しい人だってこと。オレを大事にしてくれてるってこと」 にっこりと、嬉しそうに微笑む山岡が、「だから早く解して。千洋をちょうだい?」と無邪気に首を傾げるものだから、日下部の熱はぐんと一気に高まった。 「ひぃぁっ!」 ぬるりといきなり、ローションをぶっかけられた股間に、甲高い嬌声が漏れる。 タラリと後孔にそれが伝った感触がしたかと思ったら、ゴムを纏った日下部の指が、一気に2本、ずっぷりと早急に突き込まれた。 「んぁあっ!ち、ひろ…千洋」 「ん、キツ…けど、痛くはないな?」 「はぃ。はぃ、大丈夫。大丈夫ですから…」 早く、と腰を揺らす山岡に、チッと凶悪な舌打ちが落ちる。 「おまえね…」 「だ、って、ち、ひろ、疲れている、オレの、身体…気遣って…。1回って…オレの負担、減らそ…って、あぁっ!」 ずぷずぷと、日下部の指の侵入を許しながら、ハッ、ハッと息を合わせていた山岡が、突然全身が痺れるような快感を拾い上げて、ビクビクと痙攣した。 「っ、と、イくなよ」 「んぁぁっ、そこやぁっ…」 「やじゃないだろ?イイだろ?」 「んっ、んっ、いい。イイからっ…」 クニクニと前立腺をピンポイントで押され、山岡はたまらず身悶えた。 「もっ、挿れてぇっ…」 ガクガクと揺らしていた腰を、ぐいっと日下部に押し付けて、ぐるりと絡まる山岡の足に、ふらりと日下部の身体が引き寄せられる。 「っ、と…おまえ、どこでそんな…」 山岡の痴態に煽られた日下部が、くらりと眩暈を起こしたように上半身を揺らめかせ、その目にギラリと欲情の炎を燃やした。 「いまのはおまえが悪い」 「っう、なに?…あぁっ、あンッ」 ずるりと指が抜けていく感触に、山岡がゾクゾクと身悶える。 すっかり蕩けた蕾から、ぬらぬらとローションが滴り落ちていて。 「くっそ…。これは、防水シートも必要だったかな」 クスッと笑い声を漏らした日下部が、同じくスクラブのパンツをずり下げて、すでに臨戦態勢にあるモノを取り出した。

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