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第364話

そんなこんなで、朝カンファが始まり、午前中、それぞれが、オペに診察に病棟回りと自分の仕事をいつも通りにこなして、昼。 イレギュラーな午前オペを終わらせた山岡が、ふらりと医局に戻ってきた。 「おっ、山岡先生、お疲れ様」 「日下部先生…お疲れ様です」 のんびりとパソコンの画面を眺めていた日下部の出迎えに、山岡がペコリと頭を下げる。 術衣の上に羽織られた白衣がふわりと揺れた。 「早かったな。成功?」 「えぇ、もちろんです」 「だろうな。じゃぁもう昼行ける?」 12時前だけど、と笑う日下部が、パソコンの画面を閉じながらゆるりと立ち上がる。 「はぃ。オペ記事は後で書くとして、オペ後指示も済ませていますし、急ぎの仕事はありません」 「そ。じゃぁ食堂行っちゃおうか」 「そうですね」 「おまえ朝、パン1個だもんな。いい加減、腹が空いただろ?」 「ん~?」 ふらりとあらぬ方を見る山岡に、空腹の感覚はないのか。 考えるその仕草に苦笑してしまいながら、日下部がひょいと財布を取り上げた。 「行くか」 「はぃ」 後ろの尻ポケットに財布を突っ込みながら歩いていく日下部に、山岡が並ぶ。 スタスタと廊下を進む道すがら、すれ違った看護師が、2人の連れ立って歩いていく姿にやれ「眼福だ」と喜びながら、一方で「もう少しでこの姿も見れなくなるのね」と落胆やらを滲ませて通り過ぎていくのを、日下部だけが苦笑しながら見送っていた。 12時前の食堂は、かなり空いていた。 それでも早お昼をする職員や、午後すぐに検査や手術を控えているスタッフなどが早めの昼食をとりに来ていて、まったく無人というわけでもない。 ぽつり、ぽつりと姿の見えるスタッフたちの中に、日下部と山岡も混ざっていきながら、券売機の前までたどり着いた。 「で、何食べる?」 ジーッと横から山岡が食券のボタンを押すところを眺めている日下部の、その圧力といったら半端ない。 「う…定食…までは無理なんですけど、その」 ご飯はちゃんと食べますし。おかずは2品は食べますから、と涙目になる山岡に、日下部の呆れ果てた目が向く。 「はぁっ。本当に、朝食パン1個でオペ1件こなして昼に、定食が無理?どういう胃袋しているの?」 「どうって…」 「1度切り開いてがっつり観察してやりたくなるな」 「く、日下部先生が言うとしゃれになりません」 なにせ消化器外科医。消化器官に関するプロのその発言は、さすがに怖すぎる。 「はぁっ。それで?おかずがサラダと味噌汁ってな…」 カロリー!と呆れ果てる日下部に、山岡はオドオドと怯えながら、渋々ピッともう1品だけ券売機のボタンを押した。 「コロッケね。まぁ許してやるか」 全く納得いかないけど、というありありとした不満顔を隠しもせずに、日下部がシラッと券売機に向き合う。 「俺は日替わり定かな」 今日はチキン竜田だ、と呟きながら、長く綺麗な指先が発券機のボタンを押す。 「おろしポン酢、っと」 ピピッ、と音を立ててはき出された食券を取って、日下部が「行こうか?」とそれをピラピラ振りながら歩き出した。

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