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第367話

      * 翌朝。 ゆるりと目を覚ました山岡は、ぼんやりと見上げた天井が見慣れないものであることに気が付いて、がばりと身体を起こした。 「っ?!」 ふぁさり、と身体から滑り落ちた上掛けの下から、服を纏っていない自身の身体が現れて、山岡はますますパニックになる。 「えっ?あっ?」 どうして?と慌てて、ぐるりと見回した視界に、のそりと身じろぐ、布団の膨らみが飛び込んできた。 「っ…?」 「ん~?なに、山岡。もう起きたの…?」 ねむ…と言いながら、ごそりと隣の布団から出てきたのは、寝起きでも目を惹くほどに綺麗な顔をした、美形の男。 う~ん、と伸びをした手が、パタパタとベッドヘッドの辺りを彷徨い、スマホにカツンとぶつかり、ディスプレイが明るくなった。 「早…。まだ5時前じゃん…」 もう少し寝れるだろ?とぐずついた男がくるりと寝返りを打ち、その動きにつられてぱさりと捲れてしまった布団の中から、男の素肌が見えて山岡は飛び上がった。 「うわぁっ?!」 「えっ?なに?」 「えっ?えっ?なんで?なに……うわぁぁぁっ!」 どうして自分がこの状況にあるのかわからなくてパニックを起こした山岡が、ジリジリと後退り、そのままベッドの端から転がり落ちた。 ドサッ、と尻餅をついた音が響き、さすがの日下部も2度寝を諦める。 「ちょっ、山岡、大丈夫?なに?どうしたの?寝ぼけた?」 ばさっと布団を剥ぎ取って、這うようにしながら山岡が落ちた方のベッドの端まで身体を寄せた日下部が、床に落っこちて呆然としている山岡の前に、ひょこっと顔を出した。 「え…あれ?日下部先生。すみません…」 ぼんやりとベッドの上を見上げた山岡が、キョトンとなっている。 その顔が微かな困惑に揺れているのを見つけながら、日下部は山岡の全身に素早く目を走らせた。 「とりあえず、大丈夫?頭打ったりとか手を捻ったりとかしてない?」 「え?あ、はぃ、特には」 「そう。よかった。なら、ひとまず、ほら」 スッと差し出された手を、山岡は困ったように見つめながら、ふにゃりと首を傾げた。 「あの、オレ…」 「うん。寝ぼけでもしたんだろ?おまえが寝ぼけるところなんて初めて見たけど」 盛大だな、と笑いながら、ようやく差し出した手をのろのろと掴んだ山岡をぐいっと引っ張り起こし、そのままベッドの上に抱き上げた。 「寝ぼけ…うん、そう、です、ね…」 「クスクス、どうせ、当直室に泊まったかなんかだと思ってたんだろ」 昨日は俺が帰宅した後、2人で食事をとって、俺が風呂に入ってから、イチャイチャして寝たじゃないか、と笑う日下部に、山岡はコクリと頷いた。 「はぃ…」 「今日は普通に仕事だし、そこまで訳が分からなくなるほど抱き潰したつもりはないけどな?」 「っ、く、さかべ先生っ!そういうことはですねっ、朝っぱらから…っ」 「クスクス、相変わらず、スレてない。真っ赤。かっわいい~」 「好きだよ、山岡」なんて、チュッと赤くなった頬に口づけを落としてくる日下部に、山岡の顔がますます赤みを増す。 「っ~~!だ、か、ら、そういうのはっ…」 「ふふ。いい眺め」 にこり、と笑った日下部の、目だけが意地悪く山岡の裸体を舐め回すように眺めた。 「っ、な…」 「あ~あ、隠しちゃうの?もったいない」 クスクスと笑いながら、大慌てで上掛けを引っ張り巻き付けた山岡に、日下部の楽しげな目が向く。 「うっかり早起きしたし、出勤前に一戦交えられそうなんだけど」 「っ~~!しませんよっ」 「え~、朝から好きな子の裸を惜しみなく見せられて、これで抱かなきゃ男じゃないでしょ」 「っ、子って…それにっ、オレが据え膳みたいな言い方しないでください」 「え、違うの?」 「違います!」 もうやだ、と涙目になった山岡が、上掛けぐるぐる巻きのまま日下部から遠ざかる。 「そう。残念」 「っ…オレっ、シャワーっ!浴びてきます!」 クスクスと笑う揶揄い交じりの日下部の表情から逃げるように、山岡が巻き付けたままの上掛けの裾を引きずって、パタパタと寝室のドアへ向かう。 「ふふ、だから、か~わいい。でもシャワーなら昨日も浴びたのに?」 「また浴びるの?」と首を傾げながら、日下部は、いつまで経っても初心な反応をしてくれる山岡を楽しんでいた。

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