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第3話

後日、保育園の父兄と保育士の懇親会が開かれた。飲みの席で、偶然にも安藤と理津香は隣同士に座ることとなり、理津香は甲斐甲斐しく酌をしたり話しかけていた。安藤の方も嬉しそうだ。 由紀也はそんな光景を少し離れた席から内心唇をかみしめながら眺めていた。『彼の隣で笑っていたいのは、自分なのに…』そんなことを思いながら。 そんな心を追い払うように、酒を沢山飲んだ。  懇親会と言う名の飲み会が終了した後は、そのままお開きになった。 二次会があるわけでもなく、宴会が開かれた店の前で散開すると、それぞれ皆散り散りになった。ふと見ると、理津香が背を向けて歩き出したところを、安藤がやや寂しそうに見送っているのが視界に入ってしまった。  理津香は右側の道をそのまま帰って行った。そう言えば、早めに梨々花を迎えに実家に行かなければいけないと言っていたような気がする。 安藤が理津香を見送るのを見た由紀也の心は、嫉妬が渦巻いていた。そして、酔ってはいるし頭の中はグチャグチャでも精一杯普通を装い声をかけた。 「安藤さん、方向はどちらですか?」 「私は、こっちです」  安藤は左手のちょうど駅に向かう道の方に首を向けた。『チャンス』と由紀也は内心でガッツポーズをする。自身も方向が同じだったからだ。 「そうなんですね。僕もなんですよ」 「え、そうなんですか?」 「えぇ。じゃ、一緒に駅まで歩きませんか?」 「そうですね。行きましょうか」  安藤も笑顔をこちらに向け、駅方向にむかい2人で歩き出した。 「結構飲んだと思うんですけどねぇ、俺、まだ飲み足りない気がするんですよね」  飲み会での酔いも手伝って、2人きりになり由紀也は普段よりも感情的に少々安藤に対してフランクになる。 「北向先生、結構お酒強いんですか?」 「それほどでもないですけどねー。酒は好きですよ。あ、どうですか?よければもう一軒行きませんか?」  由紀也の提案に、安藤は困ったような表情を浮かべた。 「い、今からですか?陸斗を迎えにいかなければいけないので…」 安藤は由紀也に比べてまださほど酔っていないようだ。かなり飲んでいたようだが、相当に強いのだろうか。 「いいじゃないですかぁ。まだ8時ですよ?せっかくですし、もう一軒だけ付き合ってくださいよ」  強引だし、無茶を言っているのはわかる。きっと、安藤を困らせているだろう。それでも、チャンスは今しかないと思ったのだ。もし、安藤の心が他に向いていたとしても、安藤にもっと近づきたかった。  安藤はしばし考えていたものの、「わかりました」と了承してくれた。 その後、近くにあった居酒屋に2人で入った。大衆的な海鮮居酒屋だ。店内は若い客などで大いににぎわっている。満席かと思われたが、掘りごたつのある個室に案内された。 「空いていて良かったですね」  街は人出も多かったので、すぐ座れたことに由紀也は安心した。 「そうですね。土曜の夜だから、満席かと思ってましたけど、一軒目で座れて良かった」  そう言いながら、2人は向かい合い掘りごたつに腰を下ろした。 「男手1つでお子さん育てるのって、本当に大変ですよね、きっと」  一杯目のビールを片手に由紀也が呟いた。 「まぁ、大変って言えば大変ですけど、陸斗といるのは楽しいですよ。普段は構ってあげられない時間もあるんですが、その分一緒にいられる時はこっちがべったりです」  安藤は嬉しそうにほほ笑んだ。 由紀也は、『他の誰かとの間に子供ができたのか』と、何となく見ず知らずの陸斗の母親に心の奥で小さく嫉妬してしまった。 「陸斗くんも、パパと遊ぶの楽しいって言ってましたよ。パパが大好きなんだって」 「え、本当ですか?それは嬉しいな」  今までに由紀也が見たことのない表情で、安藤は照れながら刺身に箸を伸ばした。 「もし、何かあったら相談に乗ってくださいよ。力貸してください」 安藤にそんなことを言われ、5歳年下の由紀也は嬉しい反面恐縮してしまった。 「いや、そんな。俺なんかまだまだですよ。でも、できるだけサポートはさせてください」  由紀也がそう返答すると、安藤は嬉しそうな顔をした。

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