その後、由紀也は酒を勧め安藤はどんどんと酒を煽り、酒の強そうな彼でもさすがにベロンベロンに酩酊してしまった。 そして、いつしか恋の話に流れていった。というより、由紀也がそう仕向けたと言った方が良いかもしれない。 こんな時でないと、込み入った話はできないと思ったし、本当のことを聞きたかったのだ。保育士と保護者という立場だが、他に誰もいなければきっと構わないだろうとも思ったから。 「俺、全然恋人とかできないんですよね。どうすればできるんですかね、本当」 　酔いながらぼやきつつ、由紀也は酒のグラスを手に持ち動かしてみた。カランと中の氷が音を立てる。 「そうなんですか？北向先生、結構モテそうですけどね」 　酒に口を付けつつ、安藤が僅かに微笑んだ。 それを見た由紀也は何となく赤面してしまう。 「え、ホ、ホントですか？」 「ホントです」 　なおも安藤は微笑んだ。きっと社交辞令かもしれないと思う。でも、それでも嬉しかった。 そこで由紀也は、核心に触れてみることにした。 「安藤さん、梨々花ちゃんのお母さんと仲良いですよね」 　こんなこと、聞いちゃいけないのは重々承知している。でも、酔いもあり止められなかった。 　安藤は顔を赤くしながらも、困ったような表情を見せた。 顔が赤いのは酔ったことが理由だろうか。 「…そうですよねー。梨々花ちゃんのお母さんとは昨年の行事とかがきっかけで…話すようになったんです」 　確かに梨々花や陸斗は昨年も同じクラスだったから、親同士交流が生まれてもおかしくはない。 しかし、由紀也はわずかに嫉妬心がムクムクと湧いてきた。それも理津香に対して。自分よりも長く、安藤と親しくしているのかと…。 「そ、そうなんですね」 　由紀也は平常心を装うのに精一杯だった。 すると、安藤は強めの酒を呷り静かに言った。 「…俺、彼女のこと好きなんです」 　それを聞き、由紀也は目を見開き安藤から視線を離せなくなってしまった。 すぐに安藤はハッと我に返る。 「あっ、で、でも向こうはどう思っているか…」 　由紀也の心はチクリと痛んだ。 「そうですか？結構雰囲気いいと思いますよ？二人」 「そうかなぁ…」 　安藤はまた酒をグイと呷った。 「そうですよ。くじけず頑張って下さいよ」 　違う。そうじゃない。安藤を好きなのは自分だと、そんなことを考えてしまう。 「ありがとうございます」 　安藤は由紀也の目をじっと見つめた。目の周りはさらに赤くなってきているように思える。