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第5話

その後、相当に酔った二人は店を出て夜道を歩く。時刻は午後10時を過ぎている。駅への道を行くと、脇道に入ればホテル街があるのを由紀也は酔った頭ながら思い出した。 『一回だけでも…』  そんな思いが過ったのだ。 きっと、今を逃したらこんなチャンスは来ないかもしれない。お互い酔っている今こそ、自分に巡ってきた機会なのだ。 脇道に入る角で、由紀也は立ち止った。それにやや遅れて気づいた安藤がゆるりと振り向く。 「北向先生…?どうしたんですか?」 「…なんか、眠くなっちゃいました」  由紀也は少し甘えたような声を出した。眠いというのは、半分は本当で半分は安藤を誘う口実も入っている。 「…え?ここで、ですか?」  由紀也同様に酔っているであろう、安藤は訝しんだ。 「そっちに、休憩できるところあるんで、行きませんか?」  理性を半ば飛ばし、トロンとした目に真っ赤な頬で言う由紀也を見て、安藤は眉を寄せ目を細めた。 「何言ってるんですか。大丈夫ですか?先生」  安藤はまるで素面のように由紀也を咎める。もう、酔いは醒めてしまったのだろうか。 自分でも、おかしいことを言っている自覚は由紀也にもある。 自分たちは同性であり保育士と保護者という関係なのだ。それに、そもそもこんな手は、誰も使わないのではないかとも思える。  それでも、どうしても由紀也は引きたくなかった。 きっと、安藤にしてみれば男とこういう場に入るなど考えもしないだろう。 「ねっ、行きましょう?僕のこと梨々花ちゃんのお母さんだと思っていいですから」  言ってしまった。要するに、理津香の身代わりでもいいから、自分を抱いてくれと由紀也は頼んだのだ。 そもそも、男性の由紀也が女性の代わりになるとは思えないのだが。 「ね、安藤さんも酔ったでしょう?一緒に休んでいきましょうよ」  何とも自分勝手な言い草だ。 「で、でも…」  当然ながら安藤は難色を示した。 「とりあえず、行ってみましょうよ」  由紀也は酔っているとはいえ、強い力で安藤を脇道へと引っ張って行った。「ちょっと」と安藤が焦り抵抗するのにも構わずに。

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