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第9話

それから一か月、陸斗の送り迎えは安藤の親ばかりで、安藤本人は全く来ない。いよいよもって、何かあったのだろうかと由紀也は思い始めた。 『どうしたんだろう…』  単に由紀也と顔を合わせたくないだけなのか。それにしても、以前はこんなにも園に安藤が来なかったことはない。由紀也はさすがにそろそろ安藤に連絡を入れた方が良いだろうかと考える。 しかし、由紀也個人の独断では決められないので、一緒にクラスで組んでいる同僚の保育士に聞いてみることにした。 「斎藤先生」  ちょうど、すぐそばにベテランの保育士がいたので声をかけると、その保育士は人の良さげな笑顔を由紀也に向けてきた。 「北向先生、どうしたの?」 「安藤さんなんですけど、ここのところずっとおじいちゃんとおばあちゃんしか来ていないと思って。何かあったんですかね」 「あぁ。陸斗のパパね、先月にしばらく来られないって連絡が来てたわよ」 「えっ?そうなんですか?」  由紀也は初めて聞いたと言わんばかりの表情で、聞き返した。 「あら、ウチの先生たちには皆に言ったはずだったけれど、北向先生に言えてなかったかしら」  戸惑うように自分の頬に手を当てていう斎藤を見つめながら、そういえば言われたような気がすると思い出してきた。2週間くらい前に、由紀也が子供を扱っていてバタバタとしている最中に、斎藤が言っていたのだ。 「あぁ、そうでした。すみません、斎藤先生。そろそろ、安藤さん来るようになりますかね 」 「どうかしらねぇ。色々と出張したりしてるらしいから。安藤さんも大変なのよね」  そう言い残し、斎藤は次の仕事があるそうで足早に立ち去っていった。  本当に何も知らない。安藤が今、どうしているのかも分からない。ただ陸斗は普通に登園しているものの、陸斗にもそれほど変わった様子も見られないし、陸斗から読み取ったり判断することはできないのだ。仕事中にこれではいけないと思いつつも、モヤモヤが止まらない。 『安藤さん、一体どうしたんだろう…』

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