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第14話

「この前の夜は、すみませんでした」  だいぶ時間が経っているけれど、まずは謝らなければと思う。 「あぁ、いや。大丈夫ですよ」  安藤は何のことを言っているのかすぐに分かったようだが、いつもの柔らかな笑顔を見せた。 「あの時は酔いもありましたけど、僕は、あなたにとんでもないことをしました。でも、感情が抑えられなかった。あなたへの気持ちは本物なんです」 「えぇ。その気持ちは嬉しいんですよ。確かに驚きましたし、戸惑いもしましたけれどね。あんなに情熱をぶつけてくれた人は、いなかったですし」 「気持ち悪かったですよね」  きっとそうだ。安藤はノーマルだろうし、第一理津香が好きなはずなのだから。 「う~ん。確かに俺自身も女性がそういう対象だと思ってきたんですけどね。後になって考えてみたら驚いただけで、そこまで嫌悪感はなかったんです」 「僕は、てっきり避けられてるんだと思ってました。酷いことをしましたから」  後悔してもしきれない。保育士と父兄としては付き合いがあっても、それ以外の関係になるなどあり得ないとも思っていた。でも、やっぱり本心は今でも安藤を諦められずにいる。今この時だって大好きで仕方ないのだ。 「いえいえ。そうじゃないんです。確かに気まずいなとは思ってたんですけど、忙しいのもあって…」  忙しいというのは本当だったのだろうか。 「ちょっとした時に北向先生を思い出すこともあったんですよ。それで、気になったりはしてたんですけど」 「え…?」  意外な反応だった。まさか、安藤が由紀也のことを『気になる』などと言ってくれるとは思わなかった。 「俺、男が平気とかってわけではなかったんですけどね。あなたに触れられて、そんなに嫌じゃなかったことに気付いたんです。それで、何でだろうって、モヤモヤしてました」  それでも、その答えは未だ、導けてはいないのだと安藤は言う。 もっと、嫌悪され罵られるかと思っていた。もしかしたら、最悪は陸斗を転所させられるだろうかとまで思っていたくらいだ。 まぁ、今の時代は保育園の空きがなく、そう容易くは転所できないかもしれないが。 少なくとも、由紀也のことは嫌がってはいないことはわかった。 「そう言っていただけると、僕もほっとします。ところで、安藤さん。お話がもう1つあるんですけど」  由紀也は雑誌の件を聞く腹を決めた。

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