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第15話

「あぁ。何か相談があるとか言ってましたっけ」  そうだった。あの時は咄嗟に嘘を吐いてしまった。安藤の約束を取り付けやすいようにと。でも、悪気はなかった。 「あ、相談ていうか…聞きたいことがあるんです。つい相談て言ってしまってすみません」 「いえ。いいですよ。何ですか?」  安藤は一瞬キョトンとしたものの、すぐに人の好さそうな笑顔をくれた。 「あの…雑誌、見ました」  それだけを告げると、安藤は訝し気な顔をした。 「刺青の、雑誌です。安藤さんの写真が載っているのを、たまたま見ちゃったんです」  そう言うと、安藤は顔をたちまち真っ青にした。 「そうでしたか…あの手の雑誌は、きっと自分の周囲の人は見ないだろうと思ってました。でも、油断はできないですね」  安藤は苦笑を漏らす。 「一瞬、違う人かと思いました。でも、やっぱり安藤さんかなと思って」 「間違いなく、俺です。3年前から彫り師もしてて、最近ちょっと名が売れるようになったんです。会社には、内緒にしてるわけじゃないんですけど、周りには話してなくて…雑誌に載ることになった時も、ちょっと気になったんですけどね。あ、保育料は彫り師の分も合わせて計算してもらってますよ」  最後の一言に、由紀也は思わず吹き出しそうになった。 「分かってますよ」 「俺、平日は普通に会社行ってるんです。それで、土日は刺青の仕事もしてました。まぁ、陸斗には寂しい思いさせてるんですけどね」 「なぜ、彫り師を始めたのか聞いてもいいですか?」 「それは、ある時刺青のデザインを見る機会があって、それにとても惹かれたのが最初ですかね。でも、コレを始めたことも前妻と別れるきっかけになったかもしれません」  安藤は少し寂しそうな顔をした。安藤としては嫌いで別れたわけではないから、離婚をする時はとても苦しかったと、彼は話してくれた。でも、彫り師をやめることはなかったのだ。この仕事も、好きだから。 「安藤さん、お願いがあるんですが」  由紀也は、意を決して安藤の目を見つめた。 「何ですか?」 「僕に、彫り師の職場を見せてくれませんか。どんな世界なのか、あなたがどんなところでどんな刺青を彫っているのか見てみたいんです」  刺青の現場に興味を持つなど、考えたこともなかった。それに、保育士という立場からしてもいけないことだと思う。 けれど、好きな安藤のことなら、例えダークな部分であっても知りたい。 「迷惑でなければ…ですけど…」  由紀也がおずおずと言うと、安藤は困惑した顔を見せた。それでも… 「分かりました。土曜日の午後2時から1時間だけなら空いてるんで、もしよかったら来てください」 「え、いいんですか?」  てっきり断られると思っていたから、由紀也は意表を突かれた。 「俺もびっくりはしましたけど、興味を持ってくれたなら嬉しいですからね。あ、でもこのことは周りには黙っててくださいね」 「ありがとうございます。それは分かってますよ」  何だか、2人だけの秘密ができたようで由紀也は嬉しくなった。

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