保育園の行事も終わり落ち着いた頃に、由紀也は安藤の店を訪れた。いよいよ手伝いをするためだ。 まず安藤は、これまでに施した施術の例の写真が載っているファイルを見せてくれた。背中からがっつりと足まで彫っている写真もあり、こういう世界に慣れない由紀也は、内心驚いた。 『うわぁ…ここまでするんだ…』 　しかし、こういったことで怖気づいてはいられない。自分で、この世界に足を踏み入れたのだから。 それ以外にも、ふくらはぎに和彫りが施された写真や、女性の太腿や腕、腰などにタトゥーが彫られた写真など多数の事例があった。 「色々な場所に彫るんですね、みんな…」 　由紀也が呟くと、安藤がふふと笑った。 「そうですね。海外だと、日本よりも刺青に対して寛容ですし、もっと際どい部分にも入れてる人もいるんですよ」 「際どい部分？」 　由紀也は初めピンとこなかった。しかし、少し考えて“性器や女性だと胸のことも指す”のだと気付き、顔が赤くなってしまった。 そんなところにまで入れる人がいるなんて、知らなかったのだ。 「え、えぇ？？」 　まさか、安藤もそんなところも実績があるのかと思ったが、安藤は「ははは」と笑った。 「でも、僕はやったことないですね」 「あ、そ…そうなんですか」 　内心焦ったが、何となく安心してしまう。仕事でも、他人のデリケートゾーンなどを見て欲しくないと勝手ながら思うのだ。 「日本だと、そういうのあるのかなぁ。どうでしょう。分からないですけど」 　安藤は思考を巡らせてからニッコリと笑った。 「あとデザインは、何でも対応してます。オリジナルでデザインを作ることもやってるんですよ。それに、お客さんにもやってみたいデザインがあったらカウンセリングの時に持ってきてもらってるんです」 「へぇ…万能なんですね」 「いえいえ。俺も、これでも苦労したんですよ。初めは結構不器用で、上手く彫れなかったんです。でも、やっぱり数多く練習してやっとここまで来た感じですね」 「そう、だったんですか」 「居残って練習したり、師匠からも何回怒鳴られたか分かりません。今は感謝してますけど」 　そんな時代が、“亮介”としての安藤にはあったのだということに、由紀也は少し驚いた。最初から上手くいく人なんていないのだから、下積み時代などがあるのは当たり前。 それから安藤は、マシンや器具などは全て消毒して管理をしていることや、施術台にはカバーがかけられていて、お客さんごとに張り替えをしていること、高圧蒸気滅菌器を使って高圧や高温により菌やウイルスを死滅させ、滅菌処理もしていることなどを説明してくれた。こうした器具の取り扱いなどは、由紀也の仕事になりそうだ。