25 / 30
第25話
「本当ですよ。俺が好きなのは、あなたです」
「い、一体、いつから?」
「ここに来てくれるようになってからですかね。懇親会の後から、気にはなってきてたんですけど…自分の気持ちが分からなくて…。佐野さんに想いを残していましたし…。でも、ここを手伝いたいと言ってくれたのが、本当に嬉しかったんです。それで、一緒に居る時間の中で、少しずつ…。俺はバイとかいうやつなのかなとかも思ったり…」
由紀也はすぐに言葉が見つからなかった。あの、由紀也が迫った日から本当に意識をするようになっていてくれたというのか。それなら、あの日の行動は結果として良い方向に働いたのだろう。由紀也はあの時ぶつかって良かったと思った。普通なら気持ち悪がられ、距離を置かれた挙句にフェードアウトされるのがオチだと思うのに。
「安藤さん…」
「懇親会の後から、先生のことを考えることが増えていって、佐野さんへの気持ちが緩和され、いつしか先生にシフトしたんでしょうね」
安藤はニコリと微笑んだ。
「あの時のこと、気持ち悪かったと思うんですけど…」
「驚きはしましたけどね。不思議と、嫌だとは思わなかったんです。でも、他の人なら違ったかもしれません。先生だからこそ…先生の気持ちを知って、本当に嬉しかったんですよ」
「そう言ってくれて、僕もこれまであなたに対して頑張ってきた甲斐がありました」
由紀也は素直にそう思う。
「愛してくれる人がいるって、こんなに嬉しくて幸せなことなんですね」
安藤が、真っ直ぐで穏やかな目で由紀也を見つめる。それは紛れもなく、愛しい人を見つめる目だ。
「安藤さん…。でも、そんな風に思ってくれていたなんて、全然気付きませんでした」
「それは、先生とのこれまでの関係を壊すのが怖かったのもあるでしょう。あなたは勇気出して一歩も二歩も踏み出してくれたのに…俺は意気地がなくてできなかった」
「それでも、今こうして言ってくれて、嬉しいです」
「俺も、本当にありがとう。きっと正直、佐野さんへの気持ちが完全に捨てきれてなかったのかもしれない。でも、2カ月くらい前に彼女に恋人がいると知り、けじめが付きましたし、あなたへの想いがはっきりしました」
安藤は気持ちの移り変わりをちゃんと話してくれた。これを聞くことができて、由紀也も何年もの苦しい片思いや嫉妬からやっと抜け出せそうだ。
ともだちにシェアしよう!