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3★
その日の深夜。
「うわあっ!」
悪夢で飛び起きた。
あきも起こしてしまったらしく、ぼんやりしたまま聞いてきた。
「……ん? どうしたの?」
かすれ声。
俺はなんだか不安な気持ちのまま、あきを見下ろして答えた。
「嫌な夢見た……」
「どんな?」
「さっきの犬が、売れちゃっている夢。次の休みに見に行ったら、あのショーケースには別のダックスフンドが寝てて、あきは絶望してるし、俺は『取り返しのつかないことした』って呆然と立ち尽くしてて」
夢が潜在意識の表れだとすると、たぶん俺は、検討しているうちに売れちゃわないかが心配なのだと思う。
そして、そのせいであきがショックを受けることを、恐れている。
たかが夢、と言ってしまえばそうなのだけど、どうにも嫌な感じが抜けない。
再び布団にもぐって、あきの胸におでこをくっつける。
あきは、いいこいいことなでてくれた。
「心配だね、あしたもう一度見に行こう?」
夏休みとはいえ、平日だから、あきは普通に仕事がある。
仕事のあとにペットショップに行くなんて、どう考えても負担だ。
でも、次の休みまで待っていたら、俺は毎晩飛び起きるような気がするし、実際、本当に売れてしまうかも知れない。
「あき。俺、あの子飼いたい。いいかな?」
「うん。そうしよう。あしたお店に電話して、飼うつもりだから売らないでおいて欲しいと伝えておくね」
「ありがとう。よかった」
飼いたいと言い出したのはあきなのに、俺の方が欲しがっちゃうなんて。
「……衝動買い過ぎる?」
「ううん、僕はそう思わないよ。夢に出るほど惹かれたんだもの。あの子は、僕たちの家族になる運命で生まれてきてくれたんだと思う」
あきはしばらく俺の頭や頬をするするとなでていた。
……と思ったら、服の中に手を滑り込ませて、背中をゆっくりと、這うように愛撫し始めた。
「……ん、ん……」
身構えていなかったし、眠たくてぽわぽわしていて、すぐに体温が上がる。
「ん、……あき、」
「見てたら可愛くて。いい?」
こくっとうなずくと、キスされた。そのまま、ガラ空きののど仏へ。
体がすぐに反応してしまう。
「ぅ、もう勃っちゃった」
「……ほんとだ。ついさっきまで、わんちゃんの話してたのに。ちょっと触られただけでエッチな気持ちになっちゃうの?」
「ん、んっ、……いじわる言わないで。こっちも触って」
「まだダメ」
ねだるように腰をくねらせて、あきの太ももに押し当ててみたけど、下は触ってくれなかった。
その代わり、Tシャツをたくし上げて、乳首に口をつけてきた。
ちゅうっ、ちゅうっと強めに吸われて、身悶える。
「はぁ、……ぁ、ねえ、ん……、下、きつい。触ってほし……」
あきが、服の上から、形を確かめるように包み込む。
「ほんとにガチガチ。想像しちゃった?」
「……あきが触ったとこ、全部切なくなる」
「甘えたさん」
俺の服を脱がすその手つきさえ色気を帯びていて、甘い吐息が漏れてしまう。
あきはどうかと思って見てみたら、艶めかしい目で俺を見下ろしていた。
「深澄は、可愛い顔して欲情するとこうなんだから、たまらない」
「……どんな顔してる?」
「早くお尻のなか気持ち良くして、エッチなことしてって、顔に書いてある」
ド直球なことをささやかれて、耳まで熱くなる。
あきは俺のペニスをしごきながら、トロトロのローションを塗り込むように、お尻をほぐしはじめた。
ぐちぐちと粘着質な音が、静かな部屋に響く。
「……ぁ、いきなりどっちもは、んぁ」
「嘘。本当はどっちも欲しいでしょ?」
「あ、ぁ……ん、」
あきの指摘通りで、本当は、どっちもされてめちゃくちゃ気持ちいい。
思わずうわずった声を上げると、あきは、愉快そうに笑った。
「正直で可愛いよ」
「ん、……っ、あぁ」
俺がビクビクと跳ねるのも厭 わず、手前のいいところを何度も刺激して、まるで反応を楽しんでいるみたいな。
普段は底抜けに優しいあきが、俺だけにチラッと見せる、別の顔。
十分にほぐれたのを確認すると、恥ずかしいくらいに脚を持ち上げられた。
「挿れるよ?」
「ん……きて」
あきが、ぐぐっと体重をかけると、自然にずぶずぶと奥まで入ってきた。
「ぅあ……」
ぬるぬると出し挿れするのを、いやらしく見せてくる。
「ぁあ、っはあ、……っ」
淫らな腰つきだ。
均衡の取れた体から反り立つそれが、出たり入ったりしていて、視覚からの興奮がすさまじい。
腰を両手で掴まれた……と思ったら、あきは小刻みに体ごと揺らし、いいところへ集中的に当ててきた。
興奮と快感でやばい。
「あ、っ……はぁ、あぁッ、きもちぃ」
「もっと言って? 気持ちいいのどこ?」
「ん、んっ……お尻のなか、お腹、ビクビクしちゃぅ」
「乳首も勃ってるよ。自分で触ってみて?」
恥ずかしく思いながらも、刺激が欲しくて、自ら乳首をくりくりといじってしまった。
「はぁッ、……っああ、ん、んぁ」
「自分でしてるの、やらしいね」
言われた瞬間、理性が飛んだ。
乳首をいじくりながら、自分のペニスに手を伸ばし、おずおずとしごき始める。
「ぁあ、あ……」
「深澄、すっごいエロい顔してる。欲張りさんだ。自分で気持ちいいことして」
恥ずかしいことを言われているはずなのに、手が止まらない。
乳首は乱暴にぎゅうぎゅう引っ張っていて、爪の先で強くカリカリと刺激する。
ペニスは、誰もいないところでひとりでしてるときみたいに、我を忘れて夢中でしごく。
お腹の中は、あきがえぐるようにしていて、ずくずくと熱くなってくる。
「い、イッちゃいそ……ぅ」
「うん。中はたくさん突いてあげるから、自分でしごいて」
「ぁ、あ、きもちい、んッ、んん……あっ、…………ぁあッ」
ビクンビクンッと体が大きく跳ねていて、手は本能的にぐちゅぐちゅとしごいているから、絶対みっともない顔してるって分かってるのに。
「止まんな……ぁあっ」
「いいよ、そのまま」
「ぁあッ、イクッ……っイッ、ぁああっ!…………ッ、……っ……!……」
大量に、吐き出す。長く長く絶頂に浸った。
やがて出し切ると、なんだか分からないけれど、たくさんエッチなことを言われながら、力の入らない体の奥で、あきも吐精するのを感じた。
まどろみのなか、あきが、俺の頭を優しくなでる。
「わんちゃんが来たら、こんな風にたくさん喘げないかもよ?」
「なんで? びっくりしちゃうから?」
「そう」
目を閉じ、想像する。
しかし、それはできない相談だなと思った。
「無理。声、出ちゃうもんは出ちゃうもん」
「可愛い」
あきは俺のおでこにキスを落とし、少し考えたあと、穏やかな声で言った。
「そうだね。賢い子だったし、ちゃんと伝えれば、きっと僕たちが仲良くしてるのも分かってくれる」
「……あした、迎えに行くの楽しみだな」
あきの温もりを感じて、そのまま眠りについた。
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