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何度もイッて、僕たちがようやく落ち着いたのは、日付が回るころだった。
先輩は、くたっとする僕を床に寝かせ、窓の外を見た。
「多分、いない。外出てみよっか」
これだけ何度もセックスしたのは、このあとどちらかが死んでしまっても、絶望せずに生きられるように……ということだったのだと思う。
気が済むまで体を重ねた。
これでゾンビに食われても、後悔はない。
僕たちはバリケードを崩し、手を繋いで教室の外に出た。
あちこちにべったりと血痕がくっついていて、微妙な悪臭が漂っているのが、これが現実であることを見せつけてくるようだった。
「大丈夫? 怖いか?」
「……平気です」
先輩の手を目一杯握りしめたまま階段を降り、昇降口から校舎の外へ。
誰もいないし、死体も落ちていない。
やはり皆ゾンビになったのだろう。
……それにしては、静かだった。
遠くからも何も聞こえないし、あまりに静かすぎる。
しかし、その理由はすぐに分かった。
「うっ……わ」
門のところに、動かなくなったゾンビが積み重なって、バリケードになっていた。
その向こう側には生きたゾンビが「ウーウー」とうめいているけれど、乗り越えてくることはない。
どうやら、ゾンビたちは、塀や金網を上ることはできないらしかった。
「絶対出られないけど、絶対ゾンビが入ってくることもない。って感じですかね」
「ああ」
ふたりで呆然と、門の向こう側に積み上がったゾンビを眺める。
「食料は、人の鞄とか漁れば、なんかあんだろ」
「あしたから雨みたいですし、水を貯めましょうか」
そうして僕たちは、10日ほどをやりすごした。
他の教室に立てこもっていたはずのひとたちは誰もいなくて、多分みんな、ゾンビになって出て行ってしまったのだろう。
どれだけ探してもいなかった。
僕らは生きていることを確かめるように、何度もセックスをした。
といっても、体力を使わないように、体を触り合ったり、ボディタッチでコミュニケーションを取るような感じ。
最後までイかなくても、僕たちにとっては満足なセックスだった。
先に弱ってきたのは、意外にも先輩の方だった。
僕にばかり食料を譲ってくれたし、何かの作業や重いものを運んだりするのを、先輩がやってくれたからだと思う。
あの日と同じ、明るい月夜の晩。
ついに先輩が全然動けなくなった。
「死なないで、先輩」
「……キスしろ」
ちゅ、ちゅ、と、唇にも顔にも首にも、たくさん口づける。
温かい生身の肌を、少しでも感じたい。
腕を上げるのも辛いらしい先輩の体を、手のひらでなぞる。
先輩が死んでしまったら、僕も死のう。
そう思って目を閉じた、そのとき。
「おーい、誰かいるか!?」
びっくりして体を起こす。
慌てて部屋の外に出た。
迷彩服にヘルメットを被った男性が立っていた。
「います!」
「……! 君ひとりか?」
「もうひとり男子が」
男性は無線機らしきものを口元に当てた。
「こちら緑ヶ丘高校3階、生存者2名発見しました。応援お願いします」
話を聞くと、このひとは自衛隊員で、生存者を探して安全なところへ輸送しているのだという。
ゾンビは数日前から自然に砂になって消え始めていて、僕たちのように偶然生き延びられたひとたちも、それなりにいるようだ。
「先輩、助けが来ましたよ。もうちょっとだけ、頑張ってください」
「…………ん、」
先輩は目を閉じている。
けれど、かすかにまつげが震えていて、生きようとしていることは分かった。
先輩はストレッチャーに乗せられ、僕は隊員さんに支えられながら、生存者が集められているという拠点に向かう。
「どこに行くんですか?」
「横須賀の離島だよ。ゾンビは泳げないようだから、本土から離れて数年暮らして安全を確保しようということに決まったんだ」
生存者だけで新たに村を作る。
そんなイメージらしい。
「なんで僕たちは助かったんでしょうか? なんかゾンビは、僕らの存在自体に気づいてなかった感じがするんです」
「うーん。これは、助けてきたひとたちを見たざっくりとした感想だから、科学的には全く違うかもしれないんだけどね。夫婦や男女の恋人、それから、好きな相手がいたような形跡のあるひとたちは、全滅している。生き残ったのは、孤独なひと、恋を知らない子供、ゾンビから逃げる体力があったお年寄り、それから、同性愛者の方々……」
「ゾンビは、子孫を遺さないひとは食べなかったってことですか?」
「おそらく。どう嗅ぎ分けていたのかは分からないけどな。君たちもそうなんだろう?」
「はい」
隊員さんは、1年前に奥さんを亡くしていて、他の誰にも恋はしないと決めていたらしい。
「そういうわけで、これから向かう島は同性愛の方も多いから、君たちも偏見に晒されずに生きられると思う。まずはゆっくり体力を回復して、力を合わせて生きて欲しい」
「先輩は元気になりますか?」
「もちろん。若いからね、きっと大丈夫だよ」
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