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第3話
香月さんは優しいし、カッコいい。ちょっと真面目すぎるとこもあるけど、それがいいところ、だし。凛々しい顔立ちも好きだなー、って思うし。
そりゃね、百の言う通り、女子に夢見てるっていうか…俺は男だけど――無意識に理想の恋人像みたいなのを求めてるかなぁ、って思うことはあるけど。
これから徐々に俺っていう人を分かってもらえたら…って、思っては、いる。
そのタイミングが難しいんだけどね。
「蜜さぁ、言いたいこととか我慢して先輩に合わせてんじゃねーの?」
「…我慢、とは違うけど」
「先輩の前ではしおらしいな」
「香月さんはそういう俺が好きなの」
「クラスのやつらにやるみたいにさぁ、『俺、これ好きじゃないんだよね~』とか言えばいいのに」
「ちょっと百、それ絶対 香月さんに言わないでよね」
そんな俺、絶対振られる。
「言わねーよ。千歳も言ったけど、俺 先輩と仲悪いから。そもそも会話もそうしねーし」
それはそれでどうかと思うけど。
百は、香月さんが理想の恋人像を俺に押し付けてると思ってるから。
求められてるけど押し付けられてはない、とは思うんだけど。どうなんだろうな。
そんなことを思いながら歩いていると、向こうから香月さんの姿。
俄然テンションの上がる俺。
俺たちは地元が遠いから寮生なんだけど、香月さんは近いから寮に入らず通学している。
「香月さんっ」
「蜜、おはよう」
「おはようございますぅ~」
百が後ろで、キャラが…、とか言ってるけどいい加減慣れてほしい。可愛い子ぶる俺に。
「おはようございます、先輩」
「おはよーございまーす」
千歳は律儀に会釈するけど、百はめちゃくちゃだるそう。
香月さんの口端がひくりと引きつる。
「…おはよう、ふたりとも」
何て言うか、真面目なだけあって、百の態度が…あんまりあれなんだよね、多分。
「香月さん、これ。ありがとうございました」
百から意識を逸らそうと、俺はリングのはまった指を見せるように左手を顔の横へ。
香月さんの視線は百から俺へ。
「あぁ、つけてくれたのか。でも学校でつけるのはダメだぞ?」
「嬉しくて、つい。今日だけでもダメですか…?」
香月さんは俺の上目遣いに弱い。これは絶対確か。
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