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第6話
「俺が香月さんのこと『好き』って言うの、軽々しく言ってたように聞こえてたってことだもんね。そんなの悲しいから、言うのやめます」
「えっ、いや、」
「俺 先に行きますね。週番なの忘れてた」
「あっ、ちょ、蜜!」
香月さんの声を振り切って、さっさと歩く。
週番なんて嘘。でも何かもう、イライラが理不尽に募ってダメだから。
俺の本性が出てしまいそう。いや、ちょっと出てる? まだ大丈夫だよね?
「蜜、待て」
悲しいかな、香月さんの方が背が高いから歩幅もあって、すぐに追い付かれてしまう。
「やだ。待ちません」
まだ可愛い子ぶる余裕はあるぞ、俺。教室に着くまで頑張れ。
「どうして今日はそう聞き分けが悪いんだ…」
はぁ? え、何? 俺が悪いの? 違うでしょ?
喉元まで出てきた文句を呑み込む俺。危ない危ない。
「好きって言ってほしいだけだもんっ」
代わりにちゃんと可愛い文句をぶつける。
「だからそれは、」
うるせーな。俺には言えないって言うんでしょ? 分かったからもういいよ。
「おはよう、相瀬」
突然割って入ってきた声に視線を向ける。
そこには、先週 告白してきてくれた先輩がいた。
「おはようございます…」
香月さんに腕を掴まれた状態で、何かちょっと…いや、でも気分的には助かった。
「ケンカ?」
その先輩の問いかけに答えたのは、ムッと眉を寄せた香月さん。
「小花衣(こはない)には関係ないだろう」
あ、そうだ。小花衣先輩だ。珍しい名字だったことは覚えてたんだ。
「それもそうだな」
先輩はあっさり頷いて、だけどそのまま言葉を続けた。
「でも今の笹山(ささやま)見てたら相瀬を苛めてるようにしか見えなくて」
「な…っ」
この先輩、めっちゃ斬り込んでくる。
でもまぁ、おっきい香月さんが小柄な俺の腕掴んでるから…。
あ、笹山って香月さんの名字ね。
「失礼にも程があるぞ」
「だったらもっと丁寧に扱えよ。大事なんだろ? 相瀬のこと」
「小花衣には関係ない」
俺は香月さんを見た。
「香月さん、腕痛いです…。離して…」
弱々しく可愛い俺でいることを忘れない。
か細い俺の声に、香月さんは慌てて手を離した。
「すまない、蜜」
掴まれていたところをそっと擦る。マジで丁寧に扱ってくれないかな、俺のこと。
「大丈夫?」
小花衣先輩に聞かれた俺は、ひとつだけ頷いた。
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