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第7話
それを香月さんは苦々しく見ていて。
誰のせいでこうなってると思ってんの? って、頭に浮かんだ文句を静かに呑み込む。断じて俺のワガママのせいじゃないよ。
「その黒いリング、笹山から?」
「え、あぁ。はい」
やべ。あぁ、とか言っちゃった。
でも小花衣先輩は特に気にした風もなく、そうなんだー、って相づち打ってる。良かった。
「もっとキラキラしたやつの方が似合いそうなのに」
「大きなお世話だ」
香月さんが不機嫌な声を出すと、小花衣先輩はちょっと笑った。
分かってて言ったな…。
「笹山って結構ロマンチストっていうか、夢見勝ちだよな。そう思わない?」
その同意を求められて、俺は何て答えればいいの?
うん。って言いたいよ。言いたいけど彼氏として、それはダメでしょ。
だから俺は、ちょっと曖昧に笑うだけ。
「小花衣」
「ハワイアンジュエリーの波の模様って、」
「小花衣!」
「は~い、黙ります」
香月さんのおっかない声に、小花衣先輩はけらけら笑って肩をすくめた。
「じゃあね、相瀬」
「あ、はい」
「蜜、そんなやつに返事しなくていい」
香月さんと小花衣先輩は馬が合わないんだな。
ひっどいなー、って笑いながら、小花衣先輩は先に歩いて行った。
そうじゃん、俺も早く行かなきゃ。千歳と百に愚痴聞かせる。
俺も小花衣先輩を追いかけて歩き出すと、香月さんに肩を抱かれた。
え、今度は何?
「…小花衣と何かあったのか?」
「何もないですけど」
告白されただけ。
「それにしては随分 親しげだったな。小花衣と仲がいいなんて話、俺は聞いたことないぞ」
は? 何それ。
「…香月さんは俺のこと好きじゃないから疑ってるんだ」
「何?」
「誰と仲がいいとか、何があったとか、俺はいちいち香月さんに言わなきゃいけないの? 香月さんは俺に『好き』すら言ってくれないのに?」
待て俺。落ち着いて。可愛い蜜の仮面が剥がれてしまう。
「それとこれとは、」
「もういいっ」
香月さんがびっくりしたような表情を浮かべる。
俺が香月さんにこんな風に声上げるなんてしたことなかったもん。
俺たちの様子を伺っていた周りも、驚いたみたいに目を見開いている人が多かった。
まーね、俺たちラブラブカップルみたいに思われてるからね。
「…もういい。こんなことで疑われるくらいなら、もういいよ」
目を伏せて、か細い声を出せば、香月さんの知ってる可愛い蜜の出来上がり。
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