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第8話

「蜜…?」 「離してください。遅れちゃう」 肩から香月さんの手を外す。 「蜜」 でもそれすら香月さんに阻まれた。 ちょっといい加減にして、マジで。 「何を怒ってるんだ」 「分からないならもういいです」 「蜜!」 「大きな声出さないで…怖い…」 「…っ」 耳を塞ぐ俺に、香月さんが狼狽える気配がした。 誰か呼ぼうかな。百かな。 「朝から泣かせてんなよ。かわいそー。何やってんだ笹山」 「香月 サイテー」 「なっ、うるさいぞ!」 お、ちょうどよく野次馬に香月さんの友達がいた。 「うるさいのは香月の声だろー。大丈夫? 蜜ちゃん」 俺を蜜ちゃんと呼ぶのは中矢(なかや)先輩。アッシュブルーの髪がきれい。 「こんな可愛い子にひっどい彼氏だよねー」 そう言いながら香月さんの足を蹴るのは忍足(おしたり)先輩。 「ちょっ、忍足! 痛い!」 「痛いようにやってんだよ。相瀬さ、こんな男捨てて俺と付き合わない?」 「忍足!!」 忍足先輩もいい男なんだよなー。なんて考えちゃう俺、いけない子。 「…先輩たち、そのまま香月さん押さえててもらえますか…?」 「「任せろ」」 「おい! 2人とも!!」 なんて頼もしい。 「ありがとうございますっ」 俺は2人に頭を下げると背中を向けて駆け出した。 今は香月さんといられない。イライラが大きくなってしまって、可愛い蜜でいられないから。逃げるの。 「蜜! おい、離…いだだだだ!! やめっ、ちょっ…いた、待って!!」 あー、何か聞こえる。聞こえるけどし~らないっ。 俺は無事に学校へたどり着き、靴を履き替えそのまま教室へ。 「お、今日はご機嫌麗しくないな」 俺の顔を見たクラスメートがそう一言。 「麗しいわけがないよね」 おい、誰だよ女王様怒らせたの。 なんて声は放っといて、俺はまっすぐ自分の席に向かう。 「先輩と一緒に来た割には随分不機嫌だな」 イスに座った俺に、千歳がチョコを差し出す。 俺はそれを受け取って、包装をはがすと口へ入れた。 「何かやらかしたんじゃねーの? あの人」 百が俺のとこに来て、ちょい、と眉間をつついた。 「ここシワ寄ってっとブスに見えんぞ」 「誰に向かってブスとか言ってんの? 可愛いだろうが」 「ブスにした先輩の股間蹴り上げて来るか?」 「百ってそういうとこほんとイケメンだよね」 「よせよ。照れるだろ」 「じゃあ照れてよ」 真顔じゃんかよ。

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