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第10話
「い・ま! 今解決したいの! 香月さんに解決してほしいの!」
照れちゃうのは分かる。分かるけど…淋しいじゃんか。
「でも強要したいわけじゃないんだろ?」
「そうなんだけどさ…」
俺は香月さんの前ではワガママじゃない可愛いだけの蜜だから、聞き分けのいい子でいたけど…いつまでもそんな風にしてられないよなぁ。
「香月さんが俺に好きって言ってくれたのなんて、告白された時だけだもん…」
「そりゃ、告白は『好き』って言わなきゃ伝わらないからな。手に入れたら満足したんじゃねぇの? 釣った魚に餌やらないタイプだな」
「誰が魚?」
でもな、悔しいけど百の言うことは当たってるんだよな。
付き合うまではけっこーアピールしてくれてたんだけど、付き合ってからは特に何もないし。
なくてもいーんだけどさー。
チャラついてるより誠実な人がいいと思ったから香月さんと付き合ったけど、そしたらそれでまた欲が出てきちゃう。
「は~あぁ…」
何かゆううつ。
…もしかして俺って、香月さんじゃ満たされないの…? いやいや、好きって言ってもらえないだけだし。他は別にそんな不満ないし。
大丈夫、大丈夫。
こんな風になるんなら、もう俺のこと好き?って聞くのやめよっかな…。うざいよなぁ…。
「そんなため息つくくらいなら、他の男にしなって」
「こら、百」
千歳が俺の髪を撫でながら百をたしなめる。
百はニヤッて笑っただけだった。
「…香月さんがいいんだもんー」
「そんなにいい男かねぇ」
「…優しいもん」
「自分の理想押し付けてる上にほしい言葉のひとつもくれないのに?」
「やめて。ぐうの音も出ない」
押し付けられてるとは思ってないけど、可愛いだけの蜜でいるのは確かで、ほしい言葉は軽々しく口にするものじゃないって言われちゃうし。
「蜜に別れるって言われたらどうするつもりかねぇ、先輩は」
「そこまで考えてないと思うぞ」
「ずっと自分だけの蜜だと思ってんの? バカじゃん」
「百」
「女王様粗末に扱ったらどうなるか、1回ちゃんと分かった方がいいんじゃねーの」
机に投げ出した俺の指先に百が触れる。
可愛くいるために爪の手入れだって欠かしてないそこは、毎日朝晩ネイルオイルを塗っている。ほんとはもうちょっと回数塗りたいけど、さすがに学校に持ってくるのはね。
しつこくない柔らかな花の香りが気に入っている。そのネイルオイルは百がくれたやつ。
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