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第19話
俺はあえて香月さんのことを頭の中から追いやった。だって今はどんどんマイナスなことしか浮かんでこないから。
これじゃダメ。
不安を吹き飛ばすくらいの香月さんからのアクションを期待するのは俺の勝手なんだろう。
夫婦間でも、期待はしちゃいけない、ってよく聞くもんな。それってきっと、結婚してないカップル間でも一緒なんだと思う。相手に『こうしてくれるだろう』とか『こうしてほしい』って期待はしちゃいけない。
いけないけど。
でも普通さぁ、拗ねてる相手そのまま放っとく? あり得なくない?
せめて休み時間とか様子見に来ない?
あぁ、ダメだ。今は考えない!
来たときと同じように、百がすご~く自然にエスコートしてくれるから、俺はその手を取って歩く。一歩先には千歳がいて、背後にはクラス全員。
…何かすごい絵面だな。まぁいっか。
「女王様御一行様ってかんじ~」
茅ヶ崎は呑気だな。
「アレ欲しくな~い? ほら、女王様のもこもこのマント。映画とかによく出てくるじゃん」
「なるほどいい案だな。作ってもらうか」
そう言えば、委員長の家はアパレル関係なんだっけ。でも、そんなとこでムダ遣いしなくていいと思う。
「王冠もほしいよね~」
それはいらない。
誰がつけるの?
「あとはぁ~、笹山先輩が王様になれるかどうかだねぇ」
「それはもう先輩自身にかかってるな」
「2人の騎士様が認めるかなぁ~」
2人の騎士様って、千歳と百のこと、だよね。
「基本は女王様の意思を尊重するだろう」
「え~? でも藤くんは笹山先輩のこと嫌いってハッキリ言ったし~」
「それは先輩がちゃんと女王様のご機嫌伺いをしないからだな」
「王様への道は厳しいよぉ~。だって一番ご機嫌とれるの騎士様2人だもん」
「確かにな」
確かにね。
「俺閃いたんだけどぉ、騎士様2人に愛されちゃえばいいんじゃない?」
「茅ヶ崎ぃ」
「あ、やべ。藤くん聞こえてたぁ~」
「聞こえてたし、俺らはもう女王様はちゃめちゃに愛してるから」
「んん~!! 女王様羨ましいぃ~! 藤くんみたいな男に愛してるって言われたいぃぃ」
「茅ヶ崎に百はやらないから」
「ケチぃ~」
「誰がケチか言ってみな」
「お口ミッフィーちゃんになる」
百が隣で喉を鳴らして笑った。
笑うとこじゃないんだけど。百が惚れた相手ならそれはもう仕方ないけど、そうじゃないならやらない。
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