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第20話
「千歳ならやんの?」
「千歳もやらない」
一歩先を行く千歳が俺を振り向いて、俺の右手を取った。
左手は百の腕にあるから。
「千歳?」
「安心した」
「何が?」
「俺ならやる、って言われたらどうしようかと思って」
「言わないよ、そんなの。言うわけないじゃん」
「だから安心した」
ふ、と笑って、千歳は俺の指先にかるく口付けた。
すごい自然な動作で、さすが!と思わざるを得なかった。
「ちょっと委員長~、今の見たぁ!?」
「本物の騎士みたいだったな」
「本物の女王様みたいだよね~」
2人の感想、ちょっと違うみたいだけど。
「千歳と百に大事な人が出来るまでは誰にもやらない。だからその時はちゃんと言ってね」
「そうだな」
「そうする」
千歳が俺の右頬に、百が俺の左頬に、それぞれ優しく口付けを落とす。
あれ全然遠慮してないよね~?って茅ヶ崎の声が聞こえたけど、元々こんな距離だもん。
彼氏がやめてほしいって言ったら考えるけどね。
「本当に藤くんたちの距離感が原因で別れたことないの~?」
「ないな」
「基本的に蜜の彼氏には遠慮してる」
「ほっぺにちゅーが遠慮かなぁ~」
「遠慮しなかったらどうなるんだ?」
「なに、知りたいの?」
百が俺の頬を撫でながら、にやりと笑う。
「あぁ~ん! 藤くんの手つきやらし~いっ! 堪んない…っ」
「百、あんまりからかうなよ」
千歳に笑って窘められて、百は俺の頬から手を離した。
こうやって触られるのもね、千歳と百ならいいの。他は嫌。
あ、彼氏は別だけど。
香月さんはなぁ、力の加減があんまり上手じゃないんだよね。そんな恋愛慣れしてないとこも好きだったんだけど。
キスしてる時とか、ちょっと痛いときあるもん。腕とかね。まぁでもそれも、求められてる感じがして…嫌じゃなかったけど。
「あ、そうだ。今日帰り購買寄ってね」
「何か買うのか?」
「うん、お楽しみ」
にま、と笑うと、可愛いなぁ…、って周りからひそっと声が聞こえた。もっと褒めていいよ。
すごく褒めていい。
「帰りも先輩とじゃないつもりなのぉ~?」
「こんな昼まで放ったらかしてる相手と何で俺が帰らなきゃいけないの? 論外」
「先輩めっちゃ株下げてるじゃ~ん」
「彼氏の座も危ういな、これは」
全力で機嫌とってくれるなら考えなくもない。
「女王様 横からかっ攫うなら今がチャンスだねぇ~」
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