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第30話
寮に着くと、ふたりは俺の部屋まで送ってくれる。
部屋の前でカバンとエコバッグを受け取って、後でね、ってふたりと別れた。
さて。
まずは着替えてー、と荷物を置いて、時間を見ようとスマホを取り出す。
そこで、香月さんから連絡が来ていることに気づいた。
LINEと電話と。
思ったのは「ふーん」だった。開くつもりもないから、通知をoffにする。
スマホをベッドに放り投げて、手を洗うと買ってきたものを取り出す俺。
お昼のお礼にパウンドケーキを作ろうと思うんだよね。手作り無理って人もいるとは思うから、手作り平気な人にだけだけど。
急がないと夕飯の時間になっちゃうからさっさと始めよう。
無心になって、パウンドケーキの生地を混ぜ型に流し込んで焼くという作業をしていると、ピンポーン、と部屋のインターホンが鳴った。
まだ百にも千歳にも連絡入れてないから、ふたりじゃない。
とりあえず最初の分があと2分で焼けるんだよな…。まだ焼かなきゃいけないの残ってるし…。
めんどくさいなぁ、と思いながら玄関へ。ドアは開けないよ。ドアスコープから覗くだけ。
外を覗くと、そこには誰もいなかった。ホラーかよ。やっすいホラーだな。
その時オーブンが、焼けたよー、と俺を呼ぶのでキッチンへ戻る。いや、オーブンは焼けたよーって喋らないけどさ、比喩ってことで。
今日は簡単にチョコチップのパウンドケーキ。
いい感じに焼けたかな。次の分を天板にのせて、時間をセット。もう余熱は十分だから、あとは20分焼くだけ。
つまみ食いしよっかなー、って思ってたら、スマホが鳴った。
茅ヶ崎だ。何だろ。
「はーい、蜜でーす」
『あ、茅ヶ崎だけどぉ。女王様いま部屋にいるぅ~?』
「いるけど、どうして?」
『ん~っとぉ、女王様の部屋の前に誰かいるからぁ~』
「まじ? ちょっと顔面握り潰しておいて」
『それ、“ちょっと”でやることじゃないねぇ~』
茅ヶ崎の握力があればちょっとでできると思うの。
「さっきピンポンされたんだよねー」
『あ、ほんとぉ~?』
「覗いたけど誰もいなくてさぁ」
『女王様にそんなイタズラするなんて命知らずだねぇ~』
どういう意味だよ。
「ってゆーか誰?」
『ん~、僕の好みじゃないねぇ』
「そんなこと聞いてないから」
『もぉ~。何かねぇ、ひょろっとして気が弱そうな感じのぉ~、あんまり見たことないから同級生じゃないかもねぇ~』
「じゃあ知らない」
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