『はい、手帳お返ししますぅ～』 『…っ、ふざけやがって…！』 『きゃあっ、こわぁい！ やだぁ、乱暴しないでぇ～』 『してないだろ！ 変な声出すな！ ほんとにもうっ！！』 少しして、『帰っちゃったぁ～』って茅ヶ崎の声が聞こえた。 「遊びすぎじゃない？」 『だって楽しくてぇ～。それより知ってる人だったぁ～？』 「ううん。全然」 『ふぅ～ん？ とりあえず連絡網は回しとくねぇ～』 「連絡網？」 何それ。 『あっ、いっけね。女王様知らないんだったぁ～』 「そこまで言ったんだから白状するよね、もちろん」 『僕が言ったのは内緒にしてよねぇ～？ …女王様はさぁ、可愛いでしょ？』 「まぁそうだね」 『天使のような可愛さだとか、女神のようだと崇めてる人もいるでしょ～？』 「まぁそうだね」 『ちょっと過激なファンとかもいてぇ～、そういうのから女王様を守ろう、っていうクラスの有志がねぇ～』 「…あんの？」 初耳。 『あるのぉ。まぁクラス全員なんだけどねぇ～』 「…みんな暇なの？」 『もぉ～。みんな何だかんだで女王様が好きだったりするからぁ～。自分を大事に扱う人は大事にするじゃ～ん？ だからまぁ、藤くんたちに協力しよぉねぇ～、ってぇ～』 「…あ。そ」 知らなかった。百たちもそんなの教えてくれなかったし。 『んっふふ～。女王様いま照れてるでしょぉ～！ かぁわいい～っ！！』 「俺が可愛いのは当然！ じゃあね！」 『はぁ～い』 「…茅ヶ崎」 『なぁにぃ？』 「…減点はチャラにしといてあげる」 『ん～っ！！ かっわい、』 可愛いのは当たり前。 何だかくすぐったくて電話を切ってしまった。 …何か、…何だそれ。 もう…。 パウンドケーキを切り分けながら、胸の奥がくすぐったくて落ち着かない。 落ち着かないから、今日はもうめちゃめちゃに百たちに甘えよう。 人数分切り分けて袋に詰める。それを紙袋へ入れたら、千歳と百の分は別にして置いておく。これはこの後持ってくから。 そしたら千歳に、準備できたー、ってLINEを送る。 お泊まりセットは百のとこに置きっぱにしてあるから勉強道具だけ持ってけばいいや。って用意をしてたら、着いた、ってLINEが返ってきた。 千歳早い。 ドアを開ければ、千歳と百がふたりで立っていた。 「早いね？」 「千歳の部屋にいたからな」 「そうなんだ」 千歳の部屋は俺の部屋の近く。百の部屋は上の階。百の部屋って居心地いいんだよね。インテリアとか配色とかのセンスがいいんだろうな。