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第36話
既になってる気もするけど。
お風呂から上がってきた千歳の顔にも化粧水を塗りたくると、百はそのまま交代でお風呂へ。
「…なぜ俺にも化粧水…」
スキンケア大事だからじゃない?
百がお風呂から出てくるタイミングで、千歳がお茶を淹れてくれた。
いい香り。
「これ何茶?」
「鳳凰単叢(ホウオウタンソウ)。蜜蘭香だな」
「へぇー」
俺は聞いてもよく分かんないからふたりの会話に頷いてるだけ。
でもこのお茶はおいしい。ライチ?みたいな甘い香りがする。これお茶の匂いなんだ!ってびっくりするよ。
「あっ、そうだ。パウンドケーキ」
歩くのめんどくさいから寝そべって荷物に手を伸ばす。カバンから、ラッピングしたケーキを取り出した。
「そう言えば蜜って料理出来たんだよな」
ふたりに手渡すと、百からそんな一言を頂戴した。
「どういう意味? 今までだって何回かお菓子作ってきたじゃん。うんまぁ母さんに手伝ってもらってたけど」
「そうじゃなくて、ここだと自炊ってあんまりしねぇから」
「食堂あるしな」
「そうそう」
「まぁ、確かにねぇ」
自分でごはんは…あんまり作らないなぁ。
「あ。じゃあさぁ、今度鍋しよっか」
「あーつくね食いてぇな」
「いいねぇ。千歳作ってぇ~」
「つくねは専門外なんだが…」
「つくねに専門とかあんの?」
「蜜が食べたいなら努力しよう」
「やったぁ! 千歳 大好き!」
「そんな素直な蜜には月餅な」
「やった!」
月餅のこの重厚感ってほんと罪だよね。
カロリーやばいの分かってて食べちゃうもん。
ま、今日は自分を甘やかす日だからいいんだ。
「好きなもの食べてこうやってゴロゴロしてる時間ってほんと幸せ…」
あー、月餅おいしい。お茶もおいしい。最高。
「こら、またそうやってすぐに横になって」
「いいじゃぁん。千歳のけちぃ」
「ケチじゃない」
「やだぁ。意地悪しないで…?」
自分に出来る最高に可愛い顔と可愛いポーズと可愛い声。さすがの千歳もこれには弱いの知ってるもん。
千歳がぐっと黙って眉間を押さえた。勝った。
「ははっ、弱いなー、千歳」
「百も人のこと言えないだろ」
「俺はそもそも勝ち目のない勝負は蜜に挑まないからな」
「…負けるの分かってるもんな」
「そーゆうこと」
百は素直でいいね。
千歳と百の手が伸びてきて、ふたりに髪をくしゃりと撫でられる。
ふたりからふわりと同じバラの香りがして、あ、今俺たち同じ匂いしてるんだな、って、何となく思った。
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