42 / 240
第42話
「ふぅ~ん?」
百の視線にたじろぐように体を震わせる。
しかし名前が思い出せない。昨日聞いたのにな。興味ないから仕方ないかぁ。
「先輩だから敬語使え、ねぇ。へぇ~」
「あ…あの、やっぱりいいです…生意気言ってすみませんでした…」
自主正座した。
「で、何してたのぉ~? あんなところでぇ」
「べ、別に関係ないだろっ」
あら。茅ヶ崎には強気に出るんだね。
「茅ヶ崎、ちょっとぎゅってやって差し上げな」
「はぁ~いっ」
「いだだだだだだだ!! うでうでうで!!」
「あしあしあし」
「あたまあたまあたま。何かこういうフレーズ出てくるゲームなかった? 俺あれ結構好きだったんだよねー」
「あとはいのちだけ、ってやつだろ? 歪●リな」
「あっ、それそれー! またさがしてみよー」
「スタートさせたなら止めるのもやってよ!! 呑気だな!! 痛い痛い痛い!」
「なにそれ。人に頼む態度なの?」
「申し訳ございませんっ!! 痛いので止めてくださいお願いしますっ!!」
茅ヶ崎をちらっと見ると、茅ヶ崎は俺の視線を理解して力を緩めた。
あらら、この人涙目。かわいそう。やれって言ったの俺だけど。
「で?」
そして今度はこの人も、百の『で?』を正確に理解したようだった。
「……香月くんと…」
その人の口から出たのは、香月さんの名前。
「今その名前聞くの不快なの」
「なっ…香月くんと付き合っておいて不快!?」
「ふぅん? 好きなの?」
「すっ、好きだなんて…っ」
「まぁどうでもいいけど。もう別れたし。好きにしたら?」
「え…?」
「じゃあもう来ないでね」
百に肩を抱かれたまま、俺は教室へ足を向ける。
後ろで茅ヶ崎が「じゃあねぇ~」って言うのが聞こえて、ぱたぱたと足音が追いかけてきた。
「先輩モテるねぇ~」
「蜜ほどじゃないけどな」
「藤くんは自分では張り合わないんだねぇ」
「はぁ? 百と千歳のがモテるに決まってんでしょ」
「そこは女王様が張り合うんだねぇ~」
ところでその千歳はまだかな。
まだ香月さんと話してるのかな。
別れるに当たって、俺が一方的だったのは分かる。そもそも香月さんに『別れた』って感覚があるかどうかも謎だし。なんだけどぉ。
自分は全然悪くないみたいなあの態度が嫌。ほんと嫌。
教室に着いてしばらく百たちと話をしていると、千歳が入ってきた。
「おつかれー」
百の声に、千歳はちょっと苦笑い。
ともだちにシェアしよう!