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第49話
千歳の吐き捨てるような言い方に、香月さんは眉を吊り上げた。
何だか本当に…
「…何でこんな人好きだったんだろ、俺」
心の声がこぼれてしまった。
何でこんな人に合わせようとしてたんだろ、俺。
どうしてそこまでするほど…この人の何が好きだったんだっけ。
「自分が優位に立とうとするとことか、思い通りにならないとすぐそうやって大きい声出すとことか、要求ばっかりなのとか、ほんっっとめんどくさい。めんどくさいの極み。大嫌いって言ったじゃん、昨日。聞こえてなかったならもう1回言います?」
俺の声は、思ったより冷静だった。
千歳と百がいて、ここは自分のクラスで、味方になってくれる人がいるっていう安心感があるから。
それに、昼休みだからギャラリーも多いし。香月さんだってヘタなことは出来ないはず。
「俺に要求ばっかして、それを当たり前のように振る舞ってた。そんな人と何で付き合っていかれると思うの? 香月さんのこと、もう嫌いです。こういうの、迷惑だからやめてください」
今度はちゃんと、目を見て。
「…それが本当の蜜なのか」
「どれも本当の俺でしょ。自分に都合のいい俺しか見てなかったんでしょ」
可愛い子ぶるのは、香月さんの前でだけじゃない。百や千歳の前でだってやるし、そういうのも全部俺の一部なわけで。
ただ素ではなかった。それだけ。
「可愛くておとなしくていうこと聞く子なら、一緒にいて気分がいい。だから俺を選んだんですよね。香月さんが俺に求めてたのって、口答えしない可愛いだけの子だもん」
つまらない人。
でもそれに付き合ってた俺もつまらない人なの。
「どいてください。お腹すいてるの」
百がとん、と肩を押すと、香月さんはふらりと後ろへ下がった。
道は開けた。ごはんだごはん。
ギャラリーの向こうに、こっちへ来る中矢先輩と忍足先輩の姿が。
「あ、蜜ちゃん。香月が…」
「そこにいます」
すぐ後ろを指差すと、ふたりは香月さんの表情で全部察したみたいだった。
呆然としたようなその表情。
俺があんなこと言うなんて思ってなかったみたいな。
「大嫌い、って昨日言ったでしょ。俺は香月さんに嘘をついたことなんて1度もないよ。だから大嫌いは本当。もう来ないでください」
それだけ言って、俺は背中を向けた。
「バカだな、香月」っていう中矢先輩の声が聞こえて、「ほんとバカ」っていう忍足先輩の声も聞こえた。
慰めるとかじゃないんだ。
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