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第56話
「自分で渡す度胸もないのに文句は言うんだな」
千歳、それを言ったらおしまいだよ。
「顔が分からない相手からの手紙は怖くて受け取れないって言われた、って言っておけば?」
「ついでに俺たちにも止められた、ってことにしとけばいい」
百と千歳からそう言われ、柳木くんは『どうしよう』って表情に。
俺もそれでいいと思うけどな。だって、1回受けとるの断られたのを人のせいにしちゃうんだよ?
「本気で受け取ってほしいならてめぇで来い。って言いに行く?」
百がそう言って、にまっと笑う。
「いや、それは………頼もしいです…!」
やっぱり正直だね、柳木くん。
「ってわけだから蜜、ちょっと離れるけど。茅ヶ崎、俺の代わりによろしくな」
「しょーがないね。茅ヶ崎で我慢してあげる」
「僕に藤くんの代わりは務まらないんだけどぉ~。んでも女王様のためだしねぇ~。不届き者がいたらぎゅってやっとくねぇ~」
「頼もしいな」
ほんとにね。握力ゴリラだもん。
「じゃあ千歳、あとは頼んだ」
「任せろ」
百は柳木くんに自分の手紙だけ俺に渡すよう促して、それが済んだらひらりと手を振った。
「あー百行っちゃったー」
「残念がるなら引き留めればよかったんじゃないのか?」
「だって。あれはあれで何かあれじゃん」
全部あれだな。まぁいいや。
「千歳、だっこ」
「はいはい」
千歳にひょいと横抱きにされ、首に腕を回す。
「女王様って何だかんだ藤くんに一番甘えてるぅ~?」
「百は快諾に定評のある男だからな」
そう。それ。
「千歳はたまに渋るもん」
「俺が止めないで誰が止めるんだ。ふたりを」
あ、百も含まれてた。
「まぁ須賀谷くんしか止められないよねぇ~。ふたりは」
「そうだろう」
「やだ。結託しないで」
甘えた声を出すと、仕方ないな、って千歳が目尻にキスを落とした。百がいたら、百もしてくれるのに。
しょーがないか。
俺は千歳に抱えられたまま、柳木くんからの手紙を開けてみた。柳木くんってキレイな字書くんだな。
柳木くんの手紙には、俺のことをずっと可愛いと思っていて、特別な相手になれなくてもいいから親しくなりたいという主旨のことが書かれていた。付き合ってください、とかじゃないあたりが何となく柳木くんって感じがする。
柳木くんのことよく知らないけど。
雰囲気は嫌いじゃないし、どんな人かも興味あるし、たまに話とかしてみようかなぁ。
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