57 / 240
第57話
そんなことを思っていると、
「っみ、見つけたぞっ!」
どこかで聞いたことのある声が聞こえた。
うーん、でもスルーでいいよね。めんどくさいし。
きっと千歳も同じことを思ったんだと思う。振り向きもせず淡々と足を進めていた。
もちろん茅ヶ崎も。
「ちょっ、待ってストップ! そこの…えぇっと………女王様ご一行様ストップ!! お待ちください!!」
なんで考えて出たのがそれなの?
しかも。
「何で千歳 足止めちゃうの?」
「女王様ご一行様って他にいないだろうな、と」
「感心しないで」
「でも、僕らしかいないよねぇ~」
「そんなことないでしょ?」
「だって、お姫様抱っこされてるの…ここには女王様しかいないしぃ~」
「お姫様であって女王様じゃないじゃん」
「あ、それもそうか」
「言われてみればそうだねぇ~」
そうでしょ?
「早く教室行こー」
「そうはさせるかっ!」
シュバッと躍り出てきたのは、昨日も今朝も見た人。名前は結局思い出せなかった。
ここに百がいたら間違いなく『邪魔』って言ってどかしてくれたのにな。
「誰?」
「僕の名前はどうでもいい!」
「どうでもいいさんね。変わった名前だね」
「あっ、違っ、名前が『どうでもいい』なんじゃなくて、名前は気にしなくていいって意味でっ」
分かってるわ、それくらい。こっちはおちょくってんの。
「で、何の用?」
「か、香月くんと別れたって言ってたけどっ」
「その名前聞くの不快だって言ったじゃん。何で学習しないの?」
「あっ…すみません」
素直。
「…じゃあ、あの…何て呼べば…」
「自分で考えてよ」
「えぇと、じゃあ…Kくん、で…」
「安直だけどまぁいいよ」
「あっ、ありがとうございますっ」
この人、自分が何で今お礼言ったか分かってるのかな? まぁいいけど。
「Kくんと別れたって言ってたけど、Kくんそんなつもりないみたいなんだけど…ですけど、どういうことですかっ?」
強気なのに何で敬語に直したの?
「そんなの知らないよ。俺は嫌いってちゃんと伝えたし。自分がさっさと告白すればいいんじゃないの?」
「っだ、だって…! 女王様に未練があるなら絶対振られちゃうじゃん…じゃないですかっ!」
「はぁ? そんなの知らないよ。その気にさせなよ」
「そんなこと言ったって…仰ったって、どうすれば…」
どうでもいいけど、ちょいちょい敬語に直すの何なんだろう。いや、いいんだけど。
ともだちにシェアしよう!