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第60話
「そんな簡単に…」
「じゃあやっぱり放課後呼び出して腕の自由奪ってぇ~」
「それは却下!!」
でしょうね。
「そもそもここ来る暇があるならアピールしなよ。つらいことあったんだね、僕でよければ話聞くよ?とか言って絆せばいいじゃん。っていうか、そうして。こっちに来させないようにして」
「そんな無理難題…」
「出来ないなら諦めるしかないね」
「っそ…! や、やりますっ!」
そんな意気込んじゃうほど好きなんだなぁ。
それだけ好きでいてくれる人がそばにいるんだから、俺に執着するよりそっちに目を向けた方がいいと思うよ、香月さん。
「じゃあ頑張ってね。応援してるから」
ぜひ頑張って頂きたい。
そんな打算的な思いもありつつ、それでも本気で想ってくれてる人がいることに、香月さんにも気づいてもらいたい。
俺は結局 顔から入っただけだし、薄情と言えば薄情だし。
その人からの返事を待たずに、千歳はまた歩き始めた。
名前聞かなかったけど、まぁいっか。きっとそう会うこともないよね。
横抱きにされたまま教室に入ると、百は既に任務を終えてそこにいた。早い。
「百」
「おー、遅かったじゃん。何かあった?」
千歳に呼ばれると、いじっていたスマホから顔を上げてこっちを見る。
「まぁちょっと…後で話す。それより、女王様がスマホより自分を構えと言いたげだぞ」
「ほんとだ。蜜、唇とがってんぞ」
「そんな俺も可愛いでしょ」
「可愛いな。女王様、こちらへどうぞ」
千歳から俺を引き受けた百は、そのまま着座。俺は百の膝に乗って、ぐりぐりと肩に頭を押し付けた。
そんな俺の髪を撫でて、百はなだめるように目元にキスをする。
「それで、手紙の方は何とかなったのか?」
千歳が手を伸ばして俺の髪を撫でた。
「とりあえずは。茅ヶ崎、代わりありがとな」
「どういたしましてぇ~。お礼はキスでいいよぉ~?」
「茅ヶ崎、厚かましいから口閉じて」
「お口ミッフィーちゃん~」
百がけらけらと笑う。
「女王様の許可がおりたらな」
「許可は一生おりない気がするねぇ~」
よく分かってんじゃん。
「茅ヶ崎は誰かと付き合ったりしねぇの?」
「それがねぇ~、特定の誰かと付き合いたい気持ちはないんだよねぇ~」
「どんなにタイプでも?」
「うん~。人と付き合うの向いてないんだと思う~」
「ふーん? でも俺の叔母さんも、自分は結婚には向いてないって言ってたな。そういうのも向き不向きはあるのかもな」
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