ちゃんと話しなきゃと思ってた俺だけど、どうもダメだな。こっちまでイライラしちゃいけないね。イライラするけど。 「じゃあどうしたら話を聞いてくれるんだ！」 「逆にこんなしつこくして話聞いてもらえるとか思ってたの？ 嫌いになる一方だけど」 「…っ」 「寮にまで来られるの迷惑。とにかく今日は帰って」 「蜜！」 「そういうとこほんと嫌い！」 「警備呼びますけど、どうします？」 千歳の冷静な一言に、香月さんはぐっと黙った。 それから大きく息をついて、「…今日は帰る」って俺たちとすれ違っていく。 ほんとマジ帰って。さっさと帰って。 俺はくるりと振り向くと、千歳と百に抱きついた。ふたりの腕が片方ずつ背中に回って、あやすように優しくとんとん叩かれる。 「今日はこっちに泊まるか？」 「うん…」 千歳の言葉に素直に頷く。 「じゃあ俺、色々持って後で千歳のとこ行くわ」 「色々とは」 「昨日のバラとオイルと炭酸水と蜜のスキンケアセット」 「それ全部 女王様に使うやつだねぇ～」 見事に百が使うやつ入ってないねぇ。 「部屋着とか千歳のとこに置いてあるし、他に持ってくもんないじゃん？」 「このまま俺のとこで課題やって、夕飯食べたら百の部屋寄ってくか？」 「あー、それでもいいな」 しがみついたままの俺を千歳が抱き上げる。 「先輩はどうしたら諦めるんだろうねぇ～」 「まさか自分が振られるとは思ってなかったんだろうな。だから突然のことにただ動揺するしかないみたいな感じがするよな」 「ただ単に諦めが悪いだけじゃねーの？」 百の言うこともあながち間違ってはないと思うけど、一番身も蓋もない言い方してる。 「それを言ったらおしまいだろ」 ほらね？ 「ただ羨ましがられる彼氏を失くしたくない、って感じともちょっと違うよねぇ～。女王様だからかなぁ～？ あれだと、俺は本気で好きなんだ！ 悪いところは直すから！！ とか言いそうな感じぃ～」 「それ、DV男が『もうしない』って言うのと同じくらい信じられないよな」 百、それほんとに身も蓋もない言い方してる。 「それを言ったらおしまいだろ」 ほらぁ。 「人に合わせるとか俺あんまり得意じゃないし、香月さんもそうなんだと思うけど、そこにプラス自分の言うこと聞いとけばいいみたいな考えがあるんだと思うんだよね」 「女王様に言うこと聞かせようだなんて思い上がりも甚だしくなぁい～？」 「茅ヶ崎うまいこと言うな」