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第73話

今さらだけど、あんなしつこい人だって知ってたらいくら顔がタイプでも付き合わなかったよ。…多分。 けど文句ばっか言っててもしょうがないし。 言いたいこと言わずにおとなしく可愛いだけの恋人でいた俺にもまぁ、非がないわけじゃない。 明日 中矢先輩に相談してみよう。香月さんにバレないようにこっそり。 バレたら何か更にめんどくさいことになりそうだもん。 こぼれてしまいそうになるため息を呑み込んで、俺はおとなしく千歳の部屋に運ばれた。 今日の晩ごはん何だっけ?なんて話をしながら課題を進めて、香月さんのことは一旦ちょっと置いておく。 これは考えてもどうにもならないものだから。 「…ねぇ、俺いっこ謎なんだけど」 課題が一段落して、そろそろ夕飯食べに行こうか、って部屋を出て食堂に向かう道(じゃなくて廊下だけど)すがら口を開いた俺に、千歳と百が目を向ける。 「香月さんに寮まで送ってもらったことないし、寮の部屋番号まで教えた覚えないんだけど…何で部屋の前にいたの?」 「「こっわ」」 「ちょっと、正直な感想やめてよ! 一番怖いの俺だからね!?」 「まぁ普通に考えて誰かから聞いたとかじゃねぇの?」 「個人情報保護してもらいたい」 誰だよ、勝手に教えたの。絶対許さん。 「でも寮生じゃないと知らないから、教えたのは寮生だよな」 「今朝のあの人じゃね? 」 「誰だっけ」 「あのほら、名前…知らねぇけど。いたじゃん。茅ヶ崎が引きずり出してきた人」 「あー」 そうだ。昨日茅ヶ崎に遊ばれてた人だ。 香月さんのことが好きなあの人。 え、もしそうなら許さん。 食堂にいたら問い詰めようかなぁ。 なんて物騒なことを考えながら食堂に入ると、今まさに話題にしていたその人とバッチリ目が合った。 そしてすぐさま目を逸らされた。 クロだな。 ちらっと百を見ると、俺の意図を正確に理解した百がサッと動いた。あとは百に任せておけば大丈夫だから、とりあえずごはんもらってこよう。 百の分と3人分のごはんを受け取ってから食堂をぐるりと見回すと、百は例の人を隅のテーブルにしっかり追い詰めて隣に座っていた。さすが。 「お待たせ」 そして俺たちはその向かい側に涼しい顔して着席。 「これ百の分な」 「お、ありがと。千歳」 「グリルチキン美味しいよねー。俺これ好き。――で。」 視界の隅で、ビクリと肩を揺らす人がひとり。 「ねぇ。香月さんに俺の部屋教えた?」 「、な…ナンノコト、デスカ…?」 誤魔化すのへたくそだな、この人。

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