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第85話

「だってぇ~、興味ないもん~。興味ない相手には無でしょぉ~」 「まぁ確かにね」 「今 先輩思い浮かべてるぅ~?」 「他に誰がいるの?」 無。って言われて気づいたけど、ほんとに無だわ。 好きとかそういう熱をもう向けられない相手。 どんどん嫌な部分しか見えなくなって、どんどん心は冷めていく。 香月さんがしつこくしてるのだって、きっと俺が好きだからじゃないと思うんだよね。 好きだから離れたくないとか、好きだからまだ諦められないとか、そうじゃない。ただ、『俺のだったのに』って思ってるだけなんじゃないかな、って。 あぁ、ほんとに面倒。 でも、香月さんを好きになったのは俺だからな。 ため息を呑み込んで百の肩に寄りかかる。 髪を撫でられて、おでこにキス。この当たり前のような自然なやり取りが落ち着くんだよね。 ちらっと千歳を見ると、仕方ないな、って感じで千歳もキスをくれた。 もはやクラスのみんなはそれが普通みたいな反応だから、みんな順応性高いね。 「はぁ…」 あ、いかん。ため息がこぼれてしまった。 「ねー茅ヶ崎、何か元気出る話して」 「えっ、無茶振りぃ…」 「じゃあ委員長」 「あれは3年前の、今日みたいによく晴れた日のことだった…」 怪談みたいな語り口だけど即座に対応できる委員長すごい。花丸あげちゃう。 「その日俺は林間学校でとある県のキャンプ場に来ていたんだが、夜になって霧が出始めて、みんな予定より早くバンガローに戻ったんだ。ところが…」 「ちょっと委員長、それ怪談じゃないよねぇ~?」 「え? 女王様の言うところの『元気が出る話』とは怖い話のことじゃないのか?」 「まさかのきょとん顔ぉ~」 怪談みたいな語り口だけど楽しい話かな、って思ってた。ガチの怪談だった。 でもこれはこれで気になるな…。 「じゃああれだ。俺が女装した男子に告白されて、脛毛を剃って出直してこいと言ったらほんとに脛毛を剃って出直されて振った話をしよう」 「それもうオチまで言っちゃってるからぁ」 その話で果たして俺の元気が出るかどうかは分からないけど、こういうノリとか雰囲気とか、やっぱ好きだなぁ、って思う。 彼氏に限らず、『離れたくないな』って思う出会いって、この先いくつあるんだろう。 俺は色んな出会いを大事にしてこれたかな。 香月さんとのことも、今はしんどいだけどけど、楽しいことも確かにあって。 そういうのも、ちゃんと伝えないといけないね。

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