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第86話

中矢先輩が何か言ってくれたのか、休み時間に香月さんがこっちに来ることはなく、昼休みも平穏に過ごすことができた。 おかげで俺は自分の中で色々振り返ることが出来て、とても落ち着いた気持ちで放課後を迎えた。 指定した場所は、校舎裏の芝生スペース。 ベンチがあるだけで、他は何もない見通しのいい場所。 百と千歳には校舎の陰にいてもらって、俺はひとりでベンチに座って待っていた。 「蜜ちゃんごめん。お待たせ」 声をかけられて、そっちを見る。 中矢先輩の後ろに香月さんの姿。 先輩は俺の隣じゃなく、俺が座っている隣のベンチに香月さんと腰を下ろした。 ちょっと離れた所に忍足先輩の姿が見える。 「大丈夫です。…時間、作ってくれて、ありがとうございます」 香月さんの視線が俺に注がれる。 間に空間があって、中矢先輩がいて、良かった。 香月さんの目がちょっと怖いから。 「色々話しててもしょうがないと思うので本題に入りますけど、俺、香月さんと付き合ってるつもりないので、もう会いに来るのとかやめてください」 「…俺はまだ納得していない」 またそれ。 こぼれそうになったため息を呑み込む。 「納得って何ですか?」 「っ、何で別れなきゃならないんだ」 「今まで俺の話聞いてました? 威圧的な態度と口調が嫌だから。『お前』って呼ばれるのが本当に嫌いだから。香月さん、自分に都合のいい俺しか受け入れてなかったから」 「…蜜だって」 「何ですか?」 「…そういう、今みたいな部分は俺に見せてこなかっただろう」 「じゃあ俺が悪いでいいです。俺が悪いから別れてくれますよね?」 「っ、そうじゃないだろう!」 「おい、香月!」 中矢先輩が抑えた声で香月さんを止める。 「大声出すなって。蜜ちゃん怖がらせてどうする。脅して付き合わせるのか?」 「そんなこと…っ」 「今までさ、香月の好きなように振り回してきたじゃん。こういう服着てくれ髪は染めるな弁当作ってくれこういう場所は蜜には合わない…色々要求ばっかだったじゃん。そこちゃんと分かれよ」 「分かってる!」 「分かってるなら納得できないとか言えねーよ…」 ほんとだよ。 「全部合わせてきてくれてたんだって。香月にしてほしいこととかあったんじゃねぇの? それ、一度でも聞いてあげた?」 「………」 そこで黙るの卑怯じゃない? 正直に『ない』って言いなよ。 「好きだから、理不尽とか思いながらもできたことなの。でももう無理。俺ってすごくワガママだし、ワガママ言えないのしんどいし、そもそも求められるだけとか無理だもん」

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