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第88話
嘘でしょ。この期に及んでまだそんなこと言うの?
何でそんなに執着するの?
確かに俺は可愛いよ。可愛いけど、それだけでこんなんなるかな?
思わず中矢先輩を見ると、先輩も『何で?』って言いたそうな顔で香月さんを見ていた。
「…何で俺と付き合いたいの?」
ずいぶん上からな質問だな、って思ったけど、女王様って呼ばれてんだからいいよね。
ここは女王様らしくいこう。
「…っその、」
「あ、聞いたからって付き合わないけど。別れるけど。ただ、何でかな?って思って」
「………」
恨めしそうな顔された。
「か…可愛い、だろ」
「当たり前でしょ。俺だよ?」
「あと、その…健気で」
「それ演技」
「…何でも喜んでくれて」
「それも演技。純粋に嬉しかったこともあったけど」
「笑顔に癒されて…!」
「当たり前。俺だよ?」
「……か、髪とか、さらさらで! 肌もきれいで!」
「努力してんの。協力もしてもらってるけど。でもこれ自分のため」
「………唇が、すごく、そそられる」
「それだけは聞きたくなかった」
そそられる、って何? やだ。怖い。
「と、とにかく! 一緒にいて、その、どんどん可愛さに引き込まれると言うか…離れがたくて…」
「褒められて悪い気はしないけど、でも香月さんに言われるともう気持ち悪さしか感じないの」
「可愛いだけじゃなくて! 不思議なエ、エ、エロスと言うか…」
「怖い怖い! 無理!」
「くっそエロいんだよ!! 勃つんだよ!! 抱かせてくれ!!」
「うわもう最低。無理。そういう目でしか見てなかったんだ。さよなら」
「蜜…!」
「ほんと触らないで」
サッと身を引くとサッとベンチから立ち上がる。
隣見てみなよ。中矢先輩も―――向こうの忍足先輩も軽蔑したような目で見てるから。
「俺、香月さんとそういうことしたいと思ったこと一度もないから。魅力足りないんじゃない?」
「うぐ…ッ!」
「さようなら。もう1回付き合いたいならそれなりの努力して、別れたこと俺に後悔させてみせてよ。待ち伏せとかしつこくしたら減点だけどね」
「ま、待っててくれるのか?」
「はぁ? そんなわけないじゃん。香月さんよりカッコいい人と付き合うし」
「…ッ」
とにかくもうほんとにさようなら。
「中矢先輩と忍足先輩、ついてきてくれてありがとうございました」
「うん、何か…ごめんね…」
「みっ、蜜! 俺は、」
「うるさい。うるさい人 嫌い」
「……」
俺はそのまま振り返らずに千歳と百のところに駆けて行き。
ふたりに抱きついてホッと息を吐いた。
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