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Resting in the green
SAN値が削られる、ってこういうことを言うんだろうか。
俺はもう本当にぐったりした気分で百と千歳に抱きついていた。
「お疲れ、蜜」
「頑張ったな」
「うん…」
さすがにふたりにも同情の色が見えるよ。
つまり香月さんはずっとえっちなことがしたかったってことなんだね…。だから別れたくなかった…もう最低じゃん。
唇がそそられるとかさぁ…。そう言えば、茅ヶ崎にも唇がえっちとか言われたよね…。
……俺、唇 隠して生活した方がいい?
いや、そんなんめんどくさいわ。
「…唇ってそんなに何かあれなの? そんな…そういう対象になるの…?」
「…人に、よるんじゃないか…?」
表情を見なくても分かる、千歳の困惑を滲ませた声。
「あー…あれだ。尻とか言われなくて良かったんじゃねぇの?」
百…それどんな慰め方。
「…ま、でもそれもそうだよね」
女の子が、胸とか脚ばっか見られて嫌!って言う気持ちがほんのちょっと分かったかも…?
でも胸とか脚に比べたら、唇っていつも出てるしそういう対象になることそうそうないでしょ。尻ならまだ分かる。
「…そう言えば香月さん、キスしつこかったな…」
「既に片鱗あったんじゃん」
「あれってえっちな欲だったんだ…」
「学んだな」
「学んだ」
うわ、何か今ぞわってした。
ぞわってしてしまうくらい、俺はもう香月さんから心が離れてるんだ。
そもそも付き合ってる時から、香月さんとえっちしたいって思わなかったから…。
「……俺、本気で香月さんのこと好きじゃなかったのかなぁ…」
「本気かどうかがイコールセックスしたいってわけじゃねぇだろ。あの人が蜜の気持ちをそこまで持ってこれなかっただけじゃねーの?」
「はぁ~…百ほんといい男」
「もっと褒めていいぞ」
「そのセリフは蜜っぽい」
「「確かに」」
一緒にいるうちに百が俺っぽくなってきてるとか?
「とりあえずやることは終わったし、帰るか? 甘やかされたいだろ」
「さすが千歳」
俺のこと分かってる。
「じゃあね、アフォガートを所望する」
「バニラアイス百のとこにあったよな?」
「蜜がよく食べたいって言うからな。ストックしてある」
さすが百。
「じゃ、このまま俺の部屋行くか」
「そうだな」
千歳に抱き上げられて、百がカバンを持ってくれる。
昇降口に向かって歩いていると、倉庫代わりになっているはずの小会議室から呻き声みたいなのが聞こえた。……何となく『ち』がつく人の気配がしたんだけど…気のせいだな。うん。
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