90 / 240
第90話
百の部屋でお気に入りのクッションを抱えてごろごろしている間に、百がアフォガートを作ってくれた。しかも抹茶のと二種類。
「抹茶おいしー! 百 最高!」
「準備いいな」
「この前ネットで見て、旨そうだな、って思って。俺らの女王様は抹茶好きだから」
「なるほど。でも俺もコーヒーより抹茶の方が好きだな」
「あとこのウェハース添えてくれる辺りが百だよねー。お店のみたい」
あー、おいしい。幸せ。
夕ごはん前だから量は少ないけど、満足感があるのは疲れてるからかな。
まぁでもとりあえず、香月さんのことはきっと一件落着。と思うことにする。
「柳木くんと遊びにいくの再来週にしたけど、今週にすれば良かったなー…」
「パーッと遊びたい気分になるのは分かるぞ」
今週前半めっちゃ濃すぎない? まだ半分しか過ぎてないとか…。
「ちとせーつかれたー」
千歳の膝にごろん。
「かたい」
「男の脚だから我慢してくれ」
「百のは?」
「そう変わらないと思うぞ」
百の太ももをさわさわ。
くすぐったい、って笑われた。
うーん…確かにそう変わらない。
千歳の指が髪を滑る。それが心地よくて、少しだけ、と目を閉じた。
カチャカチャと食器の音と百の足音。
片付けてくれてるんだな。
その間も、千歳の指は俺の髪を撫でて優しく滑る。
水音の後、少ししてから百の足音が戻ってきた。
「ねー、百の手が足りないよー」
「俺ひとりではお気に召さないらしい」
「まーそういうとこが可愛いんだけどな」
「そうでしょ?」
百の手は頬をなぞって喉をくすぐる。
心地いい。
…何となく、ふたりはどんな風に彼女、ないしは彼氏を触るのかな、って思った。
香月さんじゃないけど、えっちしたい、ってどんな時に思ったりするんだろう。
俺はまだそういう欲がなくて、誰かに暴かれたいとか思ったことがなくて、でも…いつか誰かにそう思うときが来るのかな。
できれば初めての彼氏とか香月さんとかと違って、えっちすることが目的、って人じゃないといいなぁ。
ふに、と唇に指が触れる。
「えっちだと思う?」
「俺らは見慣れてるからなー」
「そういう目で見たことないしな」
「だよねぇ」
そりゃそうだ。ちっちゃい頃から一緒だもん。
「そもそも蜜の唇ぷるぷるにしたの百だしな」
「まぁな」
そうなんだよね。百がリップオイルとかくれるからぷるぷるなんだよ。
「けどほら、そのおかげで触り心地はいいし。よく育ったじゃん?」
「唇って育つって言うの? 触り心地がいいのはいいけどさ」
ふたりの指が唇をふにふにと押す。
ともだちにシェアしよう!