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第98話

そう言いながら、千歳がめくってくれた布団に潜り込む。 「あんまり眠くないから何か話して」 「何かって言われてもな…」 百を起こさないように、声を潜めて密やかに。 「そうだな…。蜜、去年まで真宮と付き合ってただろ?」 「え? うん」 確かに前の彼氏は真宮って名前だった。俺はミヤって呼んでた。 付き合ってるのオープンにはしてなかったけど、百と千歳には話してたし。 俺がこの高校入るの反対されて別れたんだよね。寮に入るなんてとんでもない!って言われて。絶対変な男に惚れられるとか、襲われるとか、色々言われて俺が嫌になっちゃったの。 百も千歳も一緒だから絶対安心!って俺は思ってたけど、さすがに彼氏にそれを言うほど無神経じゃなかったよね。 離れちゃうけど応援してほしかったな、って思うのは俺の勝手。 「ミヤがどうしたの?」 「この前 俺のとこにLINEが入って」 「え? 何で?」 「蜜の近況を聞かれた」 「え? 何で?」 「さぁ?」 え、何それ。 「で、千歳は何て返したの?」 「普通。とだけ」 「あっさりだね」 けどまぁ、確かに普通だしな。 別れた相手に、彼氏と別れたとか送る必要ないし。 「真宮のことはどう思ってる?」 「どう、って…別にどうもないよね。別れた相手だし…。今でも好きか、ってこと? それはないよ。好きだったら香月さんと付き合ってないと思うし。今は……うん、無かな」 特に何もない。そんな感じ。 「無か」 「うん」 千歳の指が俺の髪を滑る。 「次は?」 「あ、彼氏? そんなすぐじゃなくてもいいかな、って。百と千歳といる方が楽しいし楽だもん」 「それは光栄」 「でしょ?」 俺がワガママ言っても甘えても離れていかないのが分かってるから、すごく居心地がいい。 でも、離れられるようにしとかないとな。千歳も百も、いつ恋人できたっておかしくないもん。 千歳の手が背中に回って、抱き込まれる。 俺は目が覚めてたけど、千歳はもうちょっと寝たいみたい。なので俺も千歳の背中に手を回して、とんとん、と優しく叩く。 しばらくすると、穏やかな寝息が聞こえてきた。 抜け出すに抜け出せなくなってしまったので、おとなしく千歳の腕の中で目を閉じる。 …ふたりは知らない。百にも千歳にも彼女ができた時、俺は淋しくなってちょっと泣いてしまった。その時 気づいたのは、いつまでも俺だけの幼なじみのままじゃないんだな、ってこと。 それはきっと、この先ずっと変わらないことなんだよな。

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