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第99話

こそりと動く気配がしたのは、それからどれくらい経った時だろう。 衣擦れの音と、密やかな足音。足音は洗面所の方へ消えていった。俺も顔洗って口漱ぎたい。 そぉっと千歳の腕から抜け出す。千歳はよく寝てるみたいで、ぴくりとも動かなかった。 ベッドからそろりと下りて、洗面所へ。 ドアを開ければ、前髪を濡らして歯ブラシを咥えた百と、鏡越しに目が合った。 「おはよ、百」 「はよ。早起きだな」 「昨日早く寝たから早く目が覚めちゃって」 百が場所を譲ってくれたので、俺も洗面所で顔を洗って口を漱ぐ。 「千歳は?」 「まだ寝てる。昨日と逆だね」 あ、逆と言えば。 「百のベッドなのに百ソファに寝てたね。ごめん」 「昨日 千歳のベッドから千歳押し出したからな」 タオルを借りて、また場所を譲る。 この後 部屋戻って着替えなきゃいけないのめんどくさいな。でも今日学校休みじゃないし。 「蜜? どうかした?」 口を漱いだ百に鏡越しに聞かれるくらい、俺はちょっと不機嫌な顔をしていたらしい。 「部屋戻って着替えて学校行くのめんどくさいな、って思って」 「何したらやる気出る?」 「えー、何だろ」 やる気かぁ。 そうだなぁ。 「じゃあ、元気が出るちゅーして」 「難易度高くないか?」 「そうかな」 後頭部に手を差し入れられて、唇が重なった。 優しく食まれて、至近距離で目が合う。 「…もうちょっと」 俺のおねだりに、百は笑ってまた唇を重ねた。 百のキスが気持ちよくてとろんとしてきた時、ドアの開く音がした。 「朝から何してるんだ」 「ん、おはよ千歳。女王様の要望で」 まぁ、入ってくるのは千歳しかいないよね。 「元気が出るちゅーしてほしくて」 「元気出たのか?」 「んーん。何か気持ちよくなっちゃった」 顔を洗って口を漱いだ千歳が、百からタオルを受け取りながらこっちを振り向いた。 「気持ちよくされてどうする」 「ほんとだよね。でもこれ百のせいじゃない?」 「気持ち良くなって気分上がったんならOKじゃね?」 「んー確かに」 間違ってはいない。 と、思っていたら、今度は千歳に肩を抱かれてキスされた。柔らかく啄むようなキスに、またとろんとなってしまう。 「ん、満足。ありがと、ふたりとも」 元気が出るって言うか、気持ちよくされちゃったけど。こうやって戯れにキスして~とか言ってキスしてくれちゃうから、彼氏いなくても満たされちゃう気がするの危ないよね。

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