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第103話

茅ヶ崎が、「先生 意外と体力ありそう~」って楽しげに呟いていたから、俺は先生に向かってこっそり合掌しておいた。とんでもないのに目をつけられましたよ。 自分がしたことないからイマイチ分かんないけど…あれするのって体力いるのか。 興味本位で聞こうもんなら、「したいの? しよ!」とか言って食べられちゃいそうだから絶対言わない。 香月さんには、そういうことしたい、って思われてたんだよな…。 俺は全然そういう気持ちにならなかったけど。でも好きだったのは確かで、それが直に性欲には結び付かなかっただけ。 恋愛って難しいなぁ…。 ただ『好き』だけじゃダメで、お互い好きでも温度に差があったりして、えっちだって自然とそういう気持ちになると思ってたのに。 えっちしたくないけど恋人はほしい、っていう人だっているし、形はそれぞれなんだと思うけど。 えっちしたことないから、したいとかしたくないとか、そういうのもまだ分からない。 ため息がこぼれそうになったのを呑み込んで、俺は授業に集中した。 いらんことを色々考えてしまうのは俺の悪いクセで、考えるのに疲れてしまった俺は、昼休みに入った時にはぺたりと机に伏せていた。 「蜜、どうした?」 千歳の声がして、髪に指が触れる気配。 「…色々考えてたら疲れちゃって」 こういう時にこそ、元気が出るちゅーして、って言うべきだよな。 ここ教室だから言わないってか言えないけど。付き合ってもないのにキスをねだるとか、ダメだもんね。もうやっちゃったけどね。 彼氏がいたら、何の遠慮もなく言えるのに。 千歳は何も言わずに、俺の髪をゆっくり撫でる。 ひとり足りない、と思っていたら、足音が近づいて来て耳裏をなぞられた。 「くすぐったい」 抗議すると、千歳と同じように、その手は髪に触れる。 「贅沢だねぇ~、女王様ぁ」 「俺を誰だと思ってんの?」 「騎士様たちの女王様ですぅ~」 「分かってるじゃん」 「前は女王様羨ましかったけどぉ、今は騎士様たちの方が羨ましいかなぁ~」 あれ? これ、俺 狙われてる? 千歳や百じゃなく? 顔だけ茅ヶ崎の方に向けると、茅ヶ崎はにこにこ笑ってこっちを見ていた。 それ、どういう感情? 「でも騎士様たち隙ないからなぁ~」 「野獣が近くにいるからな」 「野獣じゃないよぉ~」 …ほんとに俺 狙われてる? そんな気持ちが顔に表れてたんだと思う。茅ヶ崎が笑った。 「今 気づいたのぉ?」 「…ずっと冗談かと」 「もぉ~」 「無理もないだろ。そもそも茅ヶ崎バリネコ…だったからな」 千歳が過去形で言ったのは、つまりそういうこと…だね。

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