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第105話

俺がむくれていると、ふたりは宥めるように両側のこめかみに一人ずつキスをした。 こんなんで宥められてなんかやらないけどね! 「…ほんとに淋しくないからね」 「はいはい」 「分かった」 「絶対分かってない! もうっ!」 だって目が笑ってるもん。 「はぁ~…女王様可愛い…」 「ふたりの前だとほんとに素直なの可愛い…」 「ツンデレ可愛い…」 「あぁ…マジで可愛い…」 「みんなもうるさい。可愛いのなんて今に始まったことじゃないでしょ! いつも可愛いでしょ!」 「「「「「毎日 可愛いです!!」」」」」 「当たり前」 これからはうっかり余計なこと言わないように気を付ける。 「…ごはん食べに行く」 「そうだな」 立ち上がりながら、にまにま笑う百の頬をつねる。 「いつまで笑ってんの」 「今日は特別可愛かったな、と思って」 「…いつもだし」 頬をつねった手を取られて、指先にキス。 千歳を見上げれば、千歳も笑って俺の頬にキスをした。 「…機嫌、なおったわけじゃないからね」 「蜜の機嫌とるのは好きだから任せておけ」 すごい自信、と思うけど、それが事実なんだよね。 千歳が差し出してくれた腕に、素直に手をかける。と。 「女王様、これを」 委員長が床に跪き、恭しく真っ赤な布を差し出して来た。 …いや、ただの布じゃない。触れると、通販なんかの安っぽいやつじゃなく、すごく手触りのいい上質なベルベットの生地。 広げてみれば、ナポレオンの戴冠式を思わせるような見事なマントだった。襟と裾には真っ白いファーまであしらわれてる。 「……??」 え、何でマント? 「『女王様マント』だな」 「そういやそんな話してたな」 千歳と百は感心したように話してるけど…。 え、まさかほんとに作ったの? って気持ちで委員長を見ると、キリッと満足げな表情で頷かれた。 「あ…えっと…、ありがとね…?」 あ、ダメだ。俺 混乱してる。 「えぇと…寒いときに使わせてもらおうかな…」 「ぜひ!」 どうすればいいのか分からないし、委員長の行動力も謎だし、これを使う場面は一体いつだと思うし、とにかく俺の頭は一生懸命回転していた。 でもごはんには置いてっていいよね…? 「えっと、汚れると、あれだから…今は置いてくね」 「はい!」 …うん。 とりあえず今は、これが正解。 クラスのほとんどは、俺以上に呆気にとられた顔をしていた。 そりゃそうだよね。 ……けどまぁ、楽しいからいっか!

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