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第133話

安心。 「『彼氏』になったら、安心するの?」 「そりゃ、まぁ。隣にいる理由はできるじゃん」 隣にいる理由。 考えたことなかった。 そっか。 「失敗したくない気持ちは分かる。けど、付き合ってみて違うって思うことは、きっとゼロじゃない。それを、お互いどれだけ許せるかじゃねーのかな」 「俺、気が長い方じゃないんだけど」 「俺もだ…いや、まぁ、でもほら、付き合ってみて分かることもあるだろうし。もし上手くいかなかったとしても、それは『失敗』とは違うんじゃね?」 何だろ、教訓? 「もうちょっと気楽に考えていいよ。お互い人生背負うわけじゃねーし」 「…うん」 「で、一緒にいるの楽しいって思ってくれてるんなら、これからも一緒にいたい。相瀬が好きだ」 「え、と…」 「俺と付き合って」 「…………う、ん」 躊躇いながら、小さく、頷く。 握られた手が、その力が、強くなった。 「ほんとはめちゃくちゃキスしたいけど」 「それはダメ」 「分かってるって。我慢する」 こんな、中途半端な気持ちでいいの? って不安もある。けど。 今は前向きな気持ちを信じていこう。 付き合っていくうちに、何か変わるかもしれないし。 「えっと…じゃあ、よろしくね?」 こてりと首を傾げて衛宮くんを見上げる。 目の前の顔が、ぶわっと赤く染まった。 「いや、それはズルくね? あざといだろ」 「そーゆー俺も込みで好きになってくれたんだよねー?」 「うわズルい」 「ズルい俺は嫌い?」 「すげー好きです…」 「だよね!」 そんなわけで、彼氏ができました。 「へぇ~、じゃあ付き合うのぉ~?」 「うんまぁ、そうだね」 百と千歳には言わないと、と思って、寮に帰った俺は早速報告。談話室に茅ヶ崎もいたから、ついでに報告。 「ふぅ~ん」 千歳と百は、特に何も言わなかったけど、茅ヶ崎は何だか…。何だ……不満げ? 「女王様は僕が甘やかしたかったのにぃ~。ってか、甘やかしてもらえそうなのぉ~?」 「そこは分かんない」 「なのにいいのぉ~?」 「結婚するわけじゃないんだから気楽に行け、って言わなかった?」 「言ったけどぉ~。でもワガママは譲れないとこなんじゃないのぉ~?」 「不安がないわけじゃないんだよ。でも、香月さんの時とか、こんな真剣に考えなかったな、って思って」 「まぁ女王様が幸せならいいけどぉ~」 幸せ、かどうかは……まだ分かんないよね。

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