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第136話

髪の毛を指で避けられて、耳に唇が触れた。 ぞわってなるのを、俺は何とか堪える。 まだ触られるのに慣れない。 体が離れて、俺は一歩離れる。 「寮まで送るんだっけ?」 「いや、いいよ」 「何でだよ。まだ一緒にいたいとか言って俺の気持ちを弄んだだろ」 「弄んでなんかないし」 「いつもより数段可愛い子ぶって言ってきたくせに」 「はぁ? いつも最高に可愛いけど」 「可愛い自覚があって何より。さっさと好きになれよ」 「命令しないでくれる? これから育つ気持ちも育たなくなるでしょ」 「おいやめろ」 付き合う前と、付き合ってからと、衛宮くんはちょっと違う感じがする。 付き合う前は誰でも、自分を選んでほしいからいい人になっちゃうよね。だから俺に見せてたのは、物分かりのいい衛宮くんって言うか…そんな感じ。 今はたまに…ちょっと上からだなー、って思うことが、ある。 それも何だか釈然としないんだよね。 自分が上にいたいとは思わないけど、対等ではいたいと思う。 不安があるのは分かるんだけど…俺のせいで。 「帰るぞ」 衛宮くんに手を取られて、寮までの短い道を歩く。 うまく行ってるのか行ってないのか、何だかよく分からない不思議な感じ。でもまぁ、嫌ではない。 「ここでいいよ。ありがと」 寮の門の前で、手を離す。 じゃあね、って言いかけたところで、額を唇が掠めた。 びっくりして思わず衛宮くんを見るとすぐに顔を逸らされたけど、髪から覗く耳が赤く染まっていた。 「…自分で照れるならしなきゃいいじゃん」 「うるせぇな」 じゃあな、って背中を向けた衛宮くんが走っていったのは、絶対に電車の時間じゃない。 照れ隠しだ。 ああいうところは、可愛いな、って思うんだけどね。 「…俺はラブを育てないといけないからなぁ…」 求められてるのはLIKEじゃなくてLOVE。 可愛いがLIKEなのかLOVEなのかと問われたら、多分まだLIKEで。 「はぁ…」 口からこぼれたのは、ため息。 あの感じだと、どんどんえっちとかも求められそうで、ちょっと怖い。 分かるよ? そういうの気になるお年頃だし。でも…。 またこぼれそうになったため息を呑み込んで、俺は寮の門をくぐった。 ドアを開けて、エントランスに入る。 「…あの、相瀬くん…」 声をかけられて顔を上げると、同じ学年の人がこっちを見ていた。 「あ、えっと…何?」 …何か、目付きが怖いな。

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