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第140話
「一緒に出掛けるよりもうちょっと何かあるだろ!?」
「何かって何?」
「…………………家 来る?」
「それはまだちょっと早い気がする…」
「早いって何だよ!」
だって何か…えっちな感じになったら嫌だもん…。それはまだ、ダメ。
「キスとかえっちとかないと、付き合ってるって言えないの?」
「………」
今度は衛宮くんが黙った。
「先に進みたいのは当たり前の感情なんだとは思うけど、それだけ求めらるのは…嫌だ」
衛宮くんは息を吐き出して、首筋に手を当てて下を向いた。
それは何だか何かを我慢するような…そんな風に見えて。
これは俺が覚悟(?)を決めて、キスのひとつでもしないとアレなやつかなぁ…。そんな安くないんだけど。
仕方あるまい。
俺は一歩距離を詰めると、衛宮くんの頬に唇を寄せた。軽く触れただけだけど、キスはキス。
俺から触れたのは、多分これが初めて。
衛宮くんがパッと顔を上げた時には、俺はもう背中を向けて歩き出していた。
だって何か恥ずかしいし。それに…気持ちのないキスだと思ってしまったから。
好きだからしたとかじゃない。一時的に相手を満足……してはいないだろうけど、一時的に気持ちをほんの少し満たすだけのものだから。
何だか、目を合わせるのが気まずくなってしまった。
こんなのじゃなくて、ちゃんと好きだからするキスが出来るようにならないと、こういう小さな諍いみたいなのは続くんだろう。それがちょっと負担で、ちょっと怖くて。
今まで付き合って来たのとは違うこの感覚に、俺は確かに戸惑っていた。
「………相瀬」
「なに?」
「こっち向け」
「俺に命令できると思わないで」
「女王様かよ」
「女王様でしょ」
「…照れてんの?」
「俺がそれくらいで照れるとでも?」
「ならこっち…」
「ところで出掛けるの? 出掛けないの?」
衛宮くんが後ろから追いかけてきて俺の顔を覗き込もうとするのを躱しながら会話する。
「どこか行きてーの?」
声の感じから、機嫌はなおったかな。まったく、俺が誰かの機嫌とらなきゃいけないなんて。
「…スッタバの新作飲みたい」
「なら今日行くか?」
「……うん」
今日じゃなくてもいいんだけど。断ったらまためんどくさいことになりそうだし、それは避けたい。俺って大人!
後ろから、衛宮くんの指が髪に触れる。それは百と千歳とは違う感覚で違う温度で。
いつかこの温度が馴染むときが来るのかな…、なんて、少しだけ思った。
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