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第144話
怒ったんだな、と理解した途端、腕を掴む力が強くなる。
「痛いから腕離して」
「ふざけんなよ、俺が…ッ」
「痛い!」
「衛宮! それ以上はやめろ!」
柳木くんが衛宮くんの腕を掴む。けど衛宮くんはその腕を振り払った。
「柳木には関係ねぇだろ!」
「関係なくても腕は離せ。痛がってるの見て分かんないのか」
柳木くんは一番冷静だった。
「女王様がファンを把握してないと困るのは衛宮の勝手だよ。女王様は今まで把握してなくても困ったことがないから把握する必要はない、って思ってるだけなんだから。比べちゃいけないけど、笹山先輩だってファンの存在は知ってたはずだよ。それでも女王様にはそんなこと一切言わずに付き合ってた。それって、自分が選ばれた、っていう自信があったからなんじゃないの?」
そっか。香月さんも…知ってたかもしれない。
でもそんなの言われたことなかった。
「衛宮はさ、不安なんだよな」
「は? 何言って、」
「誰にも取られたくなくて押し切った形だから、女王様の気持ちがまだ自分に向いてなくて、だからつけ入る隙があるって言われて、誰かもっといいやつに拐われるんじゃないか、って」
「勝手なこと言ってんなよ」
「俺にはそう見えるよ。人の気持ちは自分にはどうにもならないことなんだから、今の衛宮にできることは、女王様の気持ちを育てることなんじゃないの? ファンがどうたらとか言ってないで、惜しみ無く愛情を注いで自分以外見ないでほしいって素直になることなんじゃないの?」
「………」
柳木くんが一番大人だ。
俺がまだ完全に衛宮くんのこと好きになってないのも、それゆえの衛宮くんの不安も、柳木くんは全部分かってる。
「女王様の気持ちが同じじゃなくても、今、選ばれて隣にいる権利があるのは衛宮だよ。そのチャンスを生かすも殺すも衛宮次第、って分かってる?」
衛宮くんを不安にしてるのは俺だけど、申し訳ないけど、そればっかりは俺にはどうにもできない。衛宮くんに『好き』って言えてない。それは、まだ自信を持って言える言葉じゃないから。
自分は好きなのに、付き合ってるのに相手の気持ちが分からないのは不安しかないよね。
それは分かるんだけど…。じゃあどうしたら好きになるのか、って聞かれても困るし…。
こんなぐずぐずな気持ちで付き合うのも失礼なのは分かってる。
けど。
別れる、って簡単に言うな、って言われたばっかだし…。
頷かない方がよかったのかな…。
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