茅ヶ崎のいつもの口調が、目が、最後だけ静かに消えた。ひたりと見据える目は、見たことがないもの。 俺はそれにちょっとびっくりしたし、衛宮くんも驚いていた。 柳木くんだけが、表情を変えずに茅ヶ崎を見ていた。 「柳木くんごめんねぇ～。お友達いじめちゃったぁ～」 「ううん。俺もちょっといじめちゃったから」 ふっ、と空気が緩んで、茅ヶ崎が柳木くんに笑う。柳木くんもちょっと苦笑いで返して、衛宮くんだけが憮然とした表情で。 俺は端から見てて、俺と付き合うのってめんどくさいんだな、って思っていた。 初めて理解した。 その点だけは、香月さんにお礼を言ってもいいかもしれない。 めんどくさい俺といてくれてありがとう、って。 「…衛宮くんさ、俺いま自分で自分と付き合うのってめんどくさいんだな、って分かったから、簡単に言うなって言われたけど、」 「別れねぇからな」 「……。あっ、そう」 何だよ。ちょっとムキになってない？ この人。 「じゃあ不機嫌になるのやめてよ」 「っつぅかさ、めんどくせぇって分かったんなら変えようとは思わねぇのかよ」 「何を？」 「態度とか！ 性格とか！」 「んなもんそう簡単に変わるわけないじゃん。そんなこと求められなきゃいけないの？」 「すげぇワガママじゃねぇか」 「だから最初に言ったじゃん。すごいワガママだよ、って」 「………」 黙るなよ。 「周りはめんどくさいし、俺はすごいワガママだし、その点に関しては申し訳ないとは思うけど、どうしようもないもん」 「開き直りかよ」 「そういう態度されるんだったらやめたいんだけど」 「っ、自分が何も変わりもしねーで求めるばっかりかよ」 「だからじゃあ別れようよ」 「そうじゃねぇだろ！」 「自分のために変わってくれる、ってのを求めてるのはそっちでしょ？ 俺そんな殊勝な性格じゃない」 求められてることは分かる。今までと違う俺になってほしいんだよね。 求めるだけじゃなくて、ちゃんと気付きを利用しろってことだよね。 でも…。 「女王様が変わるとしたらぁ、本気で惚れた相手にだけでしょぉ～？ 変わってほしかったら自分が本気で惚れさせればいいんじゃないのぉ～？」 茅ヶ崎…絶対煽ってるぞ。 「壁は高い方が越え甲斐がある、くらいに思えないとぉ～女王様の相手は務まらないよぉ～」 「…うっぜ」 「あ、衛宮」 俺の腕を離すと、ふいっと背を向けてしまう。 まぁ何て言うか…そうなるのも仕方ない。俺はめんどくさいし、周りもめんどくさいし。