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第149話

だってどっちも別の人間だもん、って茅ヶ崎は言った。 「性欲ってぇ~、まず会った人とセックスできるかどうかで見るとか言う男は少なくないけどぉ~、100人が100人そうじゃないわけじゃん~。Aセクとかノンセクの人もいるわけだしぃ~。いい年してまず会ったらホテルに誘うのが当たり前、とかバカなこと言ってる男もいるけどぉ」 そんな当たり前聞いたことないし、会ってすぐホテルに誘うってアホじゃないかな。女性に、ヤリモクかよ、って嫌われるやつじゃん。 「女王様は、最初からエッチしたいぃ~!って思って付き合うのが怖いんじゃないのぉ~?って僕は思うよぉ~」 背筋がぞくりと冷えたのは、気のせいじゃない。 「……」 「あ、答えたくないなら全然いいよぉ~。僕が言いたかったのは、『同じ気持ち』って難しい、ってことぉ~」 「…うん」 寒い気がして、自分で自分の腕をさする。 それから茅ヶ崎は何も言わずに、黙って俺の隣を歩いていた。 俺も、何も言わなかった。 「女王様のお成りだよぉ~! 騎士様たち出番だよぉ~!」 茅ヶ崎が明るい声をあげて教室のドアを開く。その向こうに百と千歳の姿が見えて、俺は知らず息を吐いた。 無意識に安心してしまうくらい、ふたりはもうずっとそばにいてくれたから。 「百、千歳」 ダメだと分かっているのに、呼んでしまう。 ふたりはそばに来て、俺を優しく抱き締めた。 安心する。 でも、これ以上 甘えるのは、ダメ。 なのに。 「顔色よくないな」 百が俺の頬に触れる。 「欲しいものはあるか?」 千歳が優しい声で俺の髪に触れる。 俺は簡単に甘やかされてしまう。 「ちょっとね…嫌なこと思い出しちゃったの。…甘いもの欲しい」 簡単に甘えてしまう。 百が俺を抱えあげて、そのまま席に座る。千歳が俺の好きなチョコを口に入れてくれる。そして女王様マントを肩にかけてくれた。これ、割と暖かくていいんだ。 「百」 「どうした?」 俺を甘やかす、甘い声。 「千歳」 手を伸ばすと、その手をしっかり握ってくれる。 「…甘えちゃダメだと思ってたのに…」 「今さら?」 「百ひどい。俺だってね、色々考えて…」 「遠慮もして?」 「そうだよ」 「嫌なことがあったから甘えてる、ってことにしとけばいーじゃん?」 「そうする…」 ここに入学してすぐの頃、告白で呼び出されたことがあった。その人は、襲うのが目的だったみたいで…強い力で押し倒されて、全身を這う手が…吐き気を催すほど気持ち悪くて、怖くて。

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