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第150話
百と千歳が助けてくれて何もなかったけど、剥き出しの性欲が怖いって思ったのはあれが初めてだった。
茅ヶ崎の話とか、えっちなこととか、興味はあるけどそれが自分に降りかかるっていう感覚が薄いのは、ある意味では自己防衛なのかもしれない。あからさまにそういう風に見られるのが怖くて、俺は気づかない振りをしていただけなのかもしれない。
付き合うなら先のことも考えなきゃいけないけど…したいって思えないんだ。
けどそれを衛宮くんに話すつもりはない。
これ以上拗れるのは…嫌。ってか、正直 面倒だし。
柳木くんを巻き込むことになったら嫌だしな。迷惑かけたくない。
「…ねぇ百」
「ん?」
「百、べろちゅーしたことある?」
「どうした急に。あるけど」
「あるの? 千歳は?」
「………まぁ、何だ、その…ある」
「あるんだ」
前に付き合ってた彼女と?
「…えっちしたこと、ある?」
「ほんとにどうした? あるけど」
「あるの? 千歳は?」
「…それはこの場で答えないといけないことか…?」
「それもう答えみたいなもんじゃん」
あるんだ。ふたりともあるんだ。
ないわけはない…とは、思ってはいたけど…。
「どうしたらそういう気持ちになるの?」
「んー…俺らのは多分 蜜の参考にはならない」
「? 何で?」
「その場の雰囲気だから」
「…確かにならないね」
その場の雰囲気って言われても分かんないもん。えっちな雰囲気? 彼女に誘われたとか?
「蜜は何でそんなこと聞こうと思ったんだ?」
百が俺の髪に唇を落としながら聞いてきた。
「…何かね、同じ『好き』って難しいな、って思って」
「同じ好き…?」
千歳が俺の指先にキスをして首を傾げる。
「俺が不安にさせてるのは分かるんだけど、好きってまだ言えなくて。求められてるとこまで追い付かないの。それが焦燥を煽るって言うか…ヤキモキさせてるって言うか…。でも謝るのも違うし、どうしたらいいのか分かんなくて…。こんな気持ちで付き合うのも悪いのに、別れるのは拒否で、俺は簡単には変われないし…」
「…そんなにつらいなら俺にしとけよ」
「っ、!?」
「――って言われたら簡単に頷きそうな感じだよな、今の蜜は」
「っちょ、ねぇ百!! 今のほんとにびっくりした!! 本気でドキッとしたんだけど!!」
「藤くん僕らも本気でドキッとしたんだけどぉぉお!! マジで心臓一瞬止まったんだけどぉぉ~!!」
クラス中が息を呑んだ音したもんな、あの時。
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