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第164話

「…そっか」 衛宮くんには、別れた方がいい理由がある。 俺はそれを知らないけど、百と千歳は知っている。 俺の呟きの意味を、百も千歳も正確に理解しただろう。 ふたりは黙って俺の髪を撫でた。 じゃあね、ってみんなに言って教室を出る。 衛宮くんと別れた方がいい理由を、俺は自分で知らないといけない。教えて、って言うのは簡単だけど、自分で知って自分で判断しないと。だって俺のことだから。 だからふたりには聞かない。 その代わり、今日は存分に甘えさせてもらおう。 明日会いたくないとか言ってないで会った方がいいかも知れないし。 「蜜」 「なぁに?」 千歳に呼ばれて顔を上げる。 「アイスの他にご所望は?」 うん、さすが。俺のことよく分かってるね、ふたりは。 ふたりとも穏やかに微笑んで俺を見ている。これは俺のワガママを存分に叶えてくれようとしている顔だ。 俺は無言で両手を伸ばした。 千歳が俺を抱き上げて、百が腕からカバンを抜き取る。 「美味しいお茶とチーズケーキ食べたい。あとねぇ、バラ風呂入りたいなぁ」 「バラ風呂いけるか? 百」 千歳にふられた百が不敵に笑った。 「こんなこともあろうかと、入浴剤準備してある」 「「さすが」」 「溶けるけど花の形してるから、雰囲気は味わえるんじゃん?」 やばい、楽しみ。 百の部屋泊まるとお風呂の後はフェイスマッサージしてくれるんだよね。今日は全身コースにしてもらお。 「部屋行ったら元気が出るちゅーしてね」 百と千歳のは浮気にならないからいいの。 衛宮くんとはまだキスもしたことなかったな。まぁ当然と言えば当然なんだけどさ。 好きじゃないのにキスできるほど器用じゃないし。気持ちのない頬へのキスはキスじゃない。 百と千歳になら躊躇わずに出来るのに。 「ねー、香月さんはさ、俺と付き合ってる時 周りのこと色々言ってこなかったんだよね」 「それは自分が選ばれた自信があったからじゃないのか?」 「やっぱりそっかぁ…」 顔がタイプだったとは言え、ちゃんと『好き』だったもんなぁ…。好みに合わせちゃお、って思えるくらいには好きだった。続かなかったけど。 「まぁ今回のも『選ばれた』ことに変わりはないんだけどな」 「『選ばれた』ってか『選ばさせた』んじゃねーの?」 百、それを言ったらおしまいだと思うの。 「それを言ったらおしまいだぞ」 ほらね?

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