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第168話
あの時は、ぞわってした。でも今は、ちょっと気持ちいいと言うか、そんな感じ。全然違う。
「ねー千歳もちょっと耳にキスしてみて」
「?」
言われた通りにしてくれる千歳。
うん。やっぱり違う。
「どうした?」
「んーとね、衛宮くんのこと考えてた。耳にね、キスされたことがあって。その時ぞわってしたの。でも今は全然だから…やっぱ別れた方がいいんだな、って思って」
百の膝に乗ったまま千歳によりかかる。
「ぞわってしたのはさぁ、やっぱり受け入れられないっていう本能的な…生理的な?分かんないけど、そういう嫌悪感って言うか…そんな感じじゃん」
「好きじゃないってことだな?」
「うん。はっきり言うとそういうこと」
好きじゃない。気持ちはそこまで育たなかった。
「キスとか無理で、それはまだそんなに時間経ってないからだと思ってたけど、そうじゃないよね。ほんとに好きだったら多分できるもん。…くっつきたいって思うはずだもん」
香月さんの時はね、そうだった。
「…悪いこと、しちゃった」
「悪いことじゃないんじゃねーの? そういうのって伝わるもんだし、相手も薄々気づいてはいると思うな。認めたくないだけで」
百はそう言いながら俺の髪に手を伸ばした。
「そう…かな」
「だから色々むきになるんじゃん?」
「なるほど」
そういうことか。
「まー押しきったのも向こうだし?」
そう言いながら皮肉っぽく笑う。
俺のお腹の上で組まれた千歳の指をなぞりながら、俺はぼんやりと衛宮くんを思った。
「…最初は、一緒にいるの楽しいかも、って思ってたのに」
「付き合う前と付き合ってからと、変わるのはよくある話だろ」
「そう…なのかな」
「選んでほしいから自分をよく見せるってのはあるんじゃないか?」
「あー…」
俺が香月さんの前ではずっと可愛い子ぶってたのと同じかな? 感覚としては。まぁあれは既に選ばれてたんだけど。
「…俺って何でまともな人と付き合えないんだろう」
「「…………」」
「黙るのやめて」
割とまともだったのって、2番目の彼氏だけかも…? って言っても、衛宮くんで5人目だけど。でも勝率(?)5分の1だからな…。
「まともな彼氏ほしーよぉ。ちょうだい?」
「じゃあ…付き合ってみる? 俺らと」
「はぇ…?」
俺はただ目をぱちぱちさせるしかできなかった。
え、今なんて言ったの?
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