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第170話
「…衛宮くんと別れる」
そばにいてほしい人たちは、変わらずそばにいてくれるって言うから。
それならもう、他の人で埋めなくてもいいから。
衛宮くんには、悪いことをした。
「ついてくか?」
「ん…」
千歳の申し出にはありがたく頷いた。だって今日みたいに腕掴まれたりしたら嫌だもん。痛いもん。ほんとはひとりで行けって話なんだけどさ。
「別れるからもいっかいキスして」
慈しむような優しいキスと、食べられちゃいそうな甘いキス。どっちにも溺れてしまいそう。
誰と付き合っても満たされなかったのは、結局そういうこと。
だって今はキスひとつでこんなに満たされる。
きっと、ずっとふたりが欲しかったの。
俺は死ぬほどワガママだから、ふたりとも欲しかったの。
「茅ヶ崎に文句言われそうだな」
「混ぜてぇ~! とか言いそう」
「百、今の似てた」
茅ヶ崎は…何か鼻が効くから気づきそうではある。
んで、百が言ったみたいに「僕も混ぜてぇ~!」とか言いそう。確かに。
「混ぜないからね」
「分かってるって」
「千歳も百も俺のなんだから。俺はふたりのなんだから。混ぜないもん」
「デレた」
「デレたな」
「デレてないっ」
宥めるように両頬にキスされて機嫌がなおっちゃうあたり、俺は本当にふたりが好きなんだな、って自覚する。
「付き合うってことは…今までよりワガママで甘えていいんだよね?」
「気が済むまで甘えていいぞ」
「蜜のワガママならいくらでも」
千歳も百も当たり前みたいに言ってくれるけど。
「後悔しない?」
ふたりが、何で?って感じで俺を見た。
「ふたりがいいならいいや…」
俺は絶対後悔しないから。
もう1回キスをねだって、ひどく満たされている自分を自覚する。温かくて優しいものに包まれるような、そんな感じ。
幸せで、泣きそう。
「大好き…」
知ってる、って甘く笑って、ふたりはまたキスをした。
夕飯に食堂へ下りて行くと、茅ヶ崎とばったり会った。そう言えば放課後から見てなかったな。
「あれぇ~? 女王様なんかスッキリした顔してるぅ~?」
これはあれかな。
「うん。別れることに決めたから」
「やったぁ~!! あ、じゃなくてぇ、ほんとぉ~?」
「え、今ので取り繕えたと思ってんの? もうばっちり本音出ちゃってたじゃん」
「えへぇ~」
っていうかさ、千歳と百だけじゃなく、茅ヶ崎にも別れた方がいいって思われてたんだなぁ。
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